格納式ドアハンドルは、EVを象徴するデザインとして普及しました。しかし、事故で電源が失われると開けられない、非常用レバーが見つけにくい、車外から救出できないといった問題が表面化しています。中国は2027年から新たな安全基準を導入し、米国でもNHTSAが業界全体を対象とする規則づくりに着手しました。なぜドアハンドルが各国の規制対象になっているのか、普及の背景と安全上の論点、BMWを含むメーカーへの影響を私が整理します。
- ✅米国は格納式ドアハンドル規制を検討
- ✅中国は2027年から機械式解除を義務化
- ✅BMW iX3は市場別に安全仕様を変更
格納式ドアハンドルがEVを中心に普及した理由
出典:nikkan.co.jpより
格納式ドアハンドルは、使用しないときにハンドルをボディ面へ収める構造です。車体側面の凹凸を減らして空気の流れを整えやすく、空気抵抗の低減を重視するEVを中心に採用が広がりました。航続距離が重要なEVでは、小さな空力改善にも意味があります。
外からハンドルが目立たないため、ボディ側面を滑らかに見せられることも普及した理由です。自動的に展開する仕組みは、先進性の演出にもなります。一方、モーターやセンサーが必要になり、機械式より構造は複雑です。デザインと利便性を優先した結果、電源喪失時の安全性が課題になりました。
中国が2027年から格納式ドアハンドルを規制する内容
新型車は車内外の機械式解除機能が必須
中国では2027年1月1日から、乗用車のドアに機械式の解除機能を備える新基準が適用されます。対象はテールゲートを除く各ドアで、車内だけでなく車外からも機械的に開けられることが求められます。電気信号だけでラッチを解除する構造や、電源がなければ外から操作できない完全格納式ハンドルは、そのままでは新基準を満たせません。
既に認証された車種には2029年まで猶予
2027年以降に投入される新型車は新基準への適合が必要ですが、既に認証されている車種には2029年1月1日までの移行期間があります。目的は格納式の外観を否定することではなく、電子制御が停止しても乗員が脱出でき、救助者が車外から開けられる状態を確保することです。
米国が新たなドアハンドル規制を検討する直接の理由
テスラModel 3の非常用解除機構が問題になった
米国で議論が具体化したきっかけのひとつが、2022年式テスラModel 3の非常用ドア解除機構をめぐる申立てです。衝突後に車両が電源を失い、電動ドアが作動しなくなった際、運転者が機械式レバーを見つけられず、後席へ移動して窓から脱出した事例が示されました。
Model 3の前席には機械式レバーがありますが、通常使う電動ボタンとは別の位置にあり、レバー自体に用途を示す表示がありませんでした。対象年式の後席には機械式解除機構もありません。非常用装備があっても、事故直後に直感的に使えなければ十分に機能しません。
個別車種ではなく業界共通の基準として検討
NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)はModel 3に対する個別の欠陥調査要請を退けました。現行基準には非常用解除装置の位置や表示方法を定める要件がなく、個別調査の根拠も不足していると判断したためです。
その一方でNHTSAは、すべての自動車に明確で確実な緊急脱出システムを求める規則制定の要請を受理し、手続きを開始しました。検討の中心は格納式ハンドルの禁止ではなく、電源を失っても迷わず脱出できる仕組みを業界共通の安全基準にすることです。
事故時に電動ドアハンドルが抱える3つの安全上の問題
電源を失うと通常の開閉操作ができない
電動ドアハンドルは、キーの認証、ハンドルの展開、ラッチの解除に電力を使います。衝突で12V系統や配線が損傷すると、ドア自体に大きな変形がなくても通常操作ができなくなる可能性があります。補助電源を備える場合も、非常時を含めた信頼性が必要です。
非常用レバーがあっても操作方法が伝わらない
機械式レバーが内装パネルの奥や普段使わない場所に隠されていれば、事故直後に見つけるのは困難です。取扱説明書に記載されていても、同乗者まで操作方法を知っているとは限りません。安全装置には見つけやすさと操作の分かりやすさも必要です。
車外から開けられないと救助が遅れる
乗員が負傷して操作できない場合は、消防や周囲の人が車外からドアを開ける必要があります。外側のハンドルが格納されたままで機械的な解除手段もなければ、窓の破壊などが必要です。中国が車内外に機械式機構を求めたのは、脱出と救出の両方を確保するためです。
規制の焦点は格納式デザインではなく機械式バックアップ
出典:highmotor.comより
問題の中心は、ハンドルがボディと一体化していること自体ではありません。重要なのは、電子制御が停止したときにも、分かりやすい場所と動作でドアを開けられるかどうかです。非常用操作だけが隠されている設計では、仕組みを知らない乗員は短時間で使えません。
ボルボEX60は同じハンドルに機械式機構を統合
ボルボEX60では、室内ハンドルを軽く引くと電動で開き、さらに強く引くと同じハンドルにつながる機械式ケーブルが作動します。通常時と非常時で操作場所が変わらず、別のレバーを探す必要がありません。
さらに、低電圧電源を供給するDC-DCコンバーターを左右に2基配置し、一方が機能すれば緊急用システムへ電力を供給できる構成です。機械式バックアップと電源の冗長性を組み合わせることが、安全な電動ドアの方向性です。
まとめ:米中の規制がBMWや自動車メーカーに与える影響
新型BMW iX3(NA5)も、接近時に自動展開する格納式ドアハンドルを採用しています。ただし、2026年の新基準によるEuro NCAP試験では、衝突後もハンドルが作動し、全電源が失われた場合でも機械式の冗長機構によって乗員の脱出と車外からの救出が可能と評価されました。(欧米仕様車)格納式だから一律に危険なのではなく、非常時の設計が重要だと分かります。
中国仕様車では中国の新しい安全基準に対応するため、電動式と機械式を一体化した半格納式ドアハンドルへ変更されています。米国でも規則が成立すれば、解除装置の位置、表示、操作方法を含めた確認が各メーカーに求められます。
個人的には空力的に効果が弱い格納式ドアハンドルは、積極的に推進することに疑問を持っています。メリットとデメリットを天秤にかけた場合にデメリットが大きすぎるからです。EVという先進性が高いイメージの車を売るための施策なのであれば、格納式ドアハンドルは安全が確保されるまでは禁止してもよいと考えています。
Reference:autoblog.nl
よくある質問(FAQ)
Q1. 中国では格納式ドアハンドルが全面禁止されるのですか?
格納式という形状自体が一律に禁止されるわけではありません。中国では2027年1月1日から、新型乗用車の各ドアに、電源を失っても車内外から操作できる機械式の解除機能が求められます。既に認証されている車種には2029年1月1日までの移行期間が設けられています。
Q2. 米国では格納式ドアハンドルの規制が決定したのですか?
現時点で格納式ドアハンドルの禁止は決定していません。NHTSAは、電源喪失時にも乗員が迷わず脱出できる明確な非常用解除機構を、すべての自動車に求める規則の制定を検討しています。
Q3. 電動式の格納ドアハンドルはなぜ危険とされるのですか?
衝突で12V電源や配線が損傷すると、ハンドルの展開やドアラッチの解除ができなくなる場合があります。また、機械式の非常用レバーが分かりにくい場所にあると、乗員の脱出や車外からの救助が遅れることも問題です。
Q4. BMW iX3のNA5と中国仕様NA6ではドアハンドルが違うのですか?
欧州などで販売されるiX3(NA5)は、電動式の格納ドアハンドルと機械式バックアップを採用しています。一方、中国専用のロングホイールベースモデルであるiX3(NA6)は、中国の新基準に対応する電動・機械一体型の半格納式ドアハンドルを採用しています。
Q5. 今後は格納式ドアハンドルがなくなるのでしょうか?
すべての格納式ドアハンドルが廃止されるとは限りません。規制の焦点は外観ではなく、電源喪失時にも車内外から確実に開けられることです。機械式バックアップや電源の冗長化を備えた設計は、今後も採用できると考えられます。



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