世界中でEV(電気自動車)シフトが加速するなか、BMWとトヨタという二大自動車メーカーは、あえて「EV一択」の戦略を取らない方針を打ち出しています。両社とも環境対応を重視している一方で、その手段には大きな違いがあるのです。
本記事では、BMWとトヨタの電動化戦略の違いと共通点をわかりやすく解説し、それぞれがなぜ異なるアプローチを選んだのか、その背景にある哲学や市場戦略に迫ります。EV時代を見据えたメーカーの本音とは何か、一緒に読み解いていきましょう。
- BMWとトヨタはEV一辺倒に慎重:EVを重視しつつも、他の技術も併用する柔軟な戦略をとっています。
- 顧客層と市場戦略の違いがアプローチを分ける:BMWは先進国向け高価格帯、トヨタはグローバル市場全体を重視しています。
- 戦略のプロセスは異なるが、目的は同じ:両社とも多様な選択肢で持続可能な社会を目指しています。
EV化の流れと各社の立ち位置
世界的に進むEVシフトと政策背景
近年、自動車業界では世界的なEV(電気自動車)シフトが進んでいます。背景には、気候変動対策としてのCO2排出量削減目標や、エンジン車の段階的な販売終了方針を打ち出す各国政府の規制があります。
特に欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車およびディーゼル車の新車販売を禁止する方針を決定しており、自動車メーカーは対応を迫られています。
中国・アメリカ・日本のEV導入の違い
中国もEV普及を国家戦略の一環と位置づけており、販売台数では世界トップを走っています。
これに対して、アメリカは州ごとに方針が分かれており、カリフォルニア州などが強力にEV化を推進している一方、内陸部ではまだガソリン車が主流です。
日本では2023年のEV新車販売比率は約2.5%程度にとどまり、充電インフラや車両価格の高さが課題です。
BMWとトヨタがEV一辺倒を避ける理由
このような状況の中、BMWとトヨタの動きが注目されています。両社は電動化を推進しながらも、「EVのみが唯一の解ではない」として、ハイブリッド車や水素車、プラグインハイブリッド車(PHEV)といった多様な技術の共存を主張しています。
地域ごとのインフラ格差とEV普及の現実
国や地域によってEVの普及状況や政策が大きく異なる中、BMWとトヨタは異なる視点から「多様なパワートレインの必要性」を訴えているのです。本章ではEV化の全体像を概観し、次章から各社の詳細な戦略に迫っていきます。
BMWのEV戦略と現実主義
BMW CEOの「EV一辺倒は行き止まり」発言
BMWはEVの可能性を認めながらも、全面的なEV移行には慎重な姿勢を見せています。2025年、BMWのオリバー・ツィプセCEOは「EV一辺倒は行き止まりである」と明言しました。この発言の背景には、EV導入が世界中で均一に進んでいるわけではないという、現実を直視した経営判断があります。
欧州内のEV普及率の地域差
ヨーロッパ内でもEVの普及率には大きなばらつきがあります。ベルギーでは新車販売の60%以上が電動化車両なのに対し、イタリアではわずか4%です。この格差は、政策、補助金、所得、インフラ状況などが絡み合っており、技術の一律推進では対応しきれません。
マルチパワートレイン戦略の中身
BMWは「マルチパワートレイン戦略」を採用しています。EVに加え、プラグインハイブリッド(PHEV)、内燃機関(ICE)、そして水素燃料電池車(FCV)も開発・展開しています。水素車についてはトヨタと共同開発を行い、2028年に市販予定です。
地域別最適化の考え方と柔軟な展開
BMWは各市場の実情に応じて、異なるパワートレインを主力とする「地域別最適化」戦略を採っています。これはグローバル戦略ではなく、ローカル戦略を重視するという意味で、BMWならではの現実主義が反映されています。
トヨタの全方位戦略とグローバル主義
トヨタのマルチパスウェイ(全方位)戦略とは
トヨタは「マルチパスウェイ戦略(全方位戦略)」を掲げ、EV、HEV、PHEV、FCV、ICEなど多様なパワートレインを並行して展開しています。これは「地域・顧客に最適な技術を提供する」という基本理念に基づいています。
公式方針に見るトヨタの電動化の哲学
2023年の公式発表では、「すべての人に移動の自由を提供するためには、技術の多様化が不可欠」とされています。EVだけでなく、他の低炭素技術との共存が地球規模の脱炭素に向けた現実的なアプローチと位置づけられています。
新興国・途上国を見据えた戦略的配慮
トヨタは新興国や発展途上国の実情も重視しています。EVの価格や充電インフラが整っていない地域では、ハイブリッド車や内燃機関車の方が現実的な選択肢となります。こうした市場ニーズに対応できるのが、トヨタの強みです。
水素車「MIRAI」と多様なエネルギー開発
トヨタはFCV「MIRAI」の量産を既に実現しており、水素エンジンの開発にも注力しています。エネルギー供給の多様化を見据えたこの姿勢は、単なるEV戦略を超えた長期的な視点と言えるでしょう。
両社の考え方の違いと背景にある構造
共通点:EVだけでは不十分という認識
BMWとトヨタはそれぞれ異なるアプローチをとっているものの、「EV一択では環境問題や市場ニーズに応えきれない」という共通認識を持っています。両社はともに、EV、ハイブリッド、水素、内燃機関などを並列に開発・提供し、ユーザーに選択肢を残す戦略を採っています。
異なる対象顧客層が戦略を分ける
BMWの主な顧客は、欧州や北米といった先進国に住む高所得層です。これに対し、トヨタは日本をはじめ、東南アジア、中東、アフリカなども含めたグローバル全体をターゲットとしています。この顧客層の違いが、戦略のプロセスや設計思想に明確な差を生んでいます。
商品価格帯と市場階層の違い
BMWは高価格帯のプレミアムモデルが中心であり、充電インフラの整った都市部での使用を前提としたEV展開が可能です。一方、トヨタはエントリーモデルから高級車まで広範な価格帯をカバーしており、インフラが整っていない地域でも対応可能な技術を重視しています。
大局的には一致する“現実主義”
BMWは「地域別最適化」、トヨタは「グローバル多様性重視」といった違いはあるものの、両社とも現実を直視した電動化戦略を採用している点では一致しています。つまり、戦略のプロセスやターゲットが違っても、「技術の多様性こそが持続可能な自動車社会を支える」という最終目的は共通しているのです。
BMWとトヨタの電動化戦略の違いを比較
比較項目 | BMW | トヨタ |
---|---|---|
基本戦略 | マルチパワートレイン戦略(EV/PHEV/ICE/水素) | 全方位戦略(EV/HEV/PHEV/FCV/ICE) |
対象市場 | 主に欧州・北米などの先進国 | 全世界(先進国+新興国・発展途上国) |
主な顧客層 | 高所得層、都市部のプレミアムユーザー | 幅広い層(エントリー〜高級まで) |
価格帯 | 中〜高価格帯中心 | 低価格帯から高価格帯まで幅広く対応 |
重点地域戦略 | 地域別最適化(地域ごとに技術を使い分け) | グローバル最適化(どこでも使える選択肢を提供) |
戦略の背景思想 | インフラ格差・政策格差への現実的対応 | すべての人に移動の自由を提供する理念 |
技術への投資 | EV、水素車、PHEVに重点 | EV、HEV、水素車、ICEを並行して強化 |
どちらの戦略が未来に強いのか?
EVが唯一の正解ではないという視点
現代の自動車市場は、地域によってインフラ、所得、政策が大きく異なるため、「EVだけが未来の答えである」とは言い切れません。どの技術が有利になるかは、電力供給の安定性や充電網の整備状況に大きく左右されるのが現実です。
EVインフラの整備には時間とコストがかかる
EVインフラの拡充には膨大な投資と時間が必要です。充電ステーションの設置や電力供給体制の整備は、特に発展途上国では進みが遅く、全世界で均一にEV化を進めるのは非現実的です。そのため、ハイブリッドや水素車など、他の選択肢がしばらくの間重要な役割を果たすと考えられます。
共存型戦略が中長期的に有利
EV、HEV、FCVなどの共存を前提としたトヨタやBMWの戦略は、変化の激しい市場環境に対応しやすく、企業としての柔軟性を確保できます。技術や市場の成熟度に応じて戦略を調整できる点は、リスク分散にもつながります。
ユーザー視点での最適な選択とは
ユーザーにとって重要なのは、自分の生活環境や使用目的に合ったクルマを選べることです。都市部であればEVが最適な選択かもしれませんが、地方やインフラが未整備な地域では、ハイブリッドやICEの方が現実的です。その意味で、多様な選択肢を提供する両社の戦略はユーザーにも恩恵をもたらします。
まとめ
BMWもトヨタも、EVだけを唯一の解とするのではなく、多様な技術を併存させることで持続可能な自動車社会を目指しています。それぞれの戦略には対象とする市場や顧客層の違いがありますが、「選択肢の多様化こそが未来の鍵である」という点で両社は一致しています。急速に変化する環境の中で、私たち消費者も柔軟な視点でクルマ選びをすることが求められています。
Reference:motor.es
よくある質問(FAQ)
Q1.BMWはなぜEV一辺倒を避ける方針なのですか?
BMWは地域ごとのインフラ格差や消費者の多様なニーズを重視し、EVだけでなくPHEVや水素車などを含む「マルチパワートレイン戦略」を採用しています。
Q2.トヨタの全方位戦略とはどのようなものですか?
トヨタの全方位戦略は、EVに限らずHEV、PHEV、FCV、ICEなどすべての技術を同時に展開し、地域やユーザーに応じた柔軟な選択肢を提供する方針です。
Q3.両社の電動化戦略に共通点はありますか?
はい、BMWもトヨタも「EVだけでは脱炭素は不十分」と考えており、選択肢の多様化こそが持続可能な未来への鍵だとしています。
Q4.どちらのメーカーが将来的に有利ですか?
市場の政策やインフラ整備の進捗によって異なりますが、柔軟な技術選択ができる両社のような戦略は中長期的に有利と見られています。
Q5.EV以外の選択肢にはどのようなものがありますか?
主にハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、水素燃料電池車(FCV)、高効率な内燃機関車(ICE)などがあり、それぞれ利点があります。
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