BMWの傘下に入ったことで幕を閉じたかに見えた「アルピナ」の歴史。しかし2025年、かつての創業家であるボーフェンジーペン家が新ブランド「Bovensiepen(ボーフェンジーペン)」を立ち上げ、再び自動車づくりの舞台に姿を現しました。
BMWへアルピナの商標を譲渡したはずの彼らが、なぜ再びステアリングを握ることになったのか──。その背景には、単なるブランド継承にとどまらない、深い哲学と情熱が隠されています。
本記事では、ボーフェンジーペンの成り立ちと注目の新型GT「ボーフェンジーペン ザガート」に迫ります。
- ボーフェンジーペンはアルピナ創業家の新ブランド:BMW傘下を離れ、独立系として再出発。
- ザガートと手がけた特別なBMW M4:美しいデザインと限定生産の特別感が特徴。
- 611馬力の高性能と完全ビスポーク内装:速さと豪華さを両立したラグジュアリーGT。
ボーフェンジーペンとは何者か?

アルピナ創業家のDNAを受け継ぐ兄弟
「Bovensiepen(ボーフェンジーペン)」という名前に聞き覚えがある方も多いかもしれません。この名は、ドイツの自動車業界で長年名を馳せたアルピナ創業家に由来します。2025年末にBMWがアルピナの商標を取得し、ブランドそのものがBMWグループに統合されたことで、アルピナは事実上独立性を失います。
その後、創業者の息子であるアンドレアス・ボーフェンジーペン氏とフローリアン・ボーフェンジーペン氏の兄弟は、父の遺志と自らの哲学を受け継ぎ、再び自動車製造の世界に戻る決意を固めました。ブランド名には家名をそのまま冠し、本拠地もかつてアルピナが拠点としていたバイエルン州ブッフローエを継承しています。
なぜ商標を譲ってまで再出発したのか?
なぜBMWにアルピナの商標を譲渡した後に、再び自らのブランドを立ち上げたのでしょうか。それは、BMWグループにおけるアルピナが今後さらに高級路線に特化していく中で、兄弟自身が理想とする「運転する歓び」「一台ごとの個性」を実現する余地が限られてくると判断したためです。
アルピナの精神を継ぐ、新たな挑戦
ボーフェンジーペンのブランド理念は、「唯一無二の美しさと走りを兼ね備えたクルマづくり」。この哲学はアルピナ時代のDNAを受け継ぎつつも、より自由な発想とデザインによって形にされます。新しい挑戦は、単なるアルピナの継承ではなく、「第二の創業」としての意味を持っています。
BMW M4を再構築:ベース車両の解説
なぜM4カブリオレを選んだのか?
ボーフェンジーペン・ザガートのベース車両には、BMW M4カブリオレが採用されています。通常のM4クーペではなくカブリオレをベースにした理由は、ルーフ構造の自由度にあります。電動ソフトトップを撤去したことで、ザガート独自の「ダブルバブルルーフ」を美しく融合させることができました。また、カブリオレゆえにBピラーが存在しない「ピラーレス構造」は、横から見たシルエットに特別な開放感と個性を与えています。
ボディサイズはひとまわり拡大
ザガートVer.となったボーフェンジーペンは、純正のM4と比べて明らかにサイズアップしています。全長4,943mm、全幅1,913mm、全高1,394mmという数値は、M4の4,805×1,885×1,400mmと比べて、よりロング&ワイドに設計されていることが分かります。これにより、GTカーとしての堂々たるプロポーションと長距離向けの安定感を実現しています。
カーボン素材による軽量化
一見大柄になったように思えるこのモデルですが、ボディパネルの多くにカーボンファイバーを採用したことで、車両重量は1,875kgに抑えられています。これはM4カブリオレの標準仕様より軽量であり、動力性能と燃費、操縦安定性にも好影響を与えています。見た目の重厚感とは裏腹に、軽さと剛性を両立する設計は、まさに新生ブランドの技術力の表れといえるでしょう。
ザガートデザインの魅力
ダブルバブルルーフとCNCステンレスグリル
ボーフェンジーペン・ザガートの最も象徴的なデザイン要素は、何と言っても「ダブルバブルルーフ」です。この造形は1950年代以来ザガートが得意とする空力デザインで、視覚的なインパクトと空気抵抗低減の両立を図ったものです。さらに、フロントにはCNC加工によるステンレス製グリルが装備されており、BMWらしいキドニーグリルの名残を残しつつも、ザガート独自の美意識を感じさせます。
曲面美とホフマイスター・キンクの進化
サイドビューには、BMW伝統のホフマイスター・キンクが強調されたようなリアウィンドウの処理が見られます。加えて、前後のフェンダーは滑らかでダイナミックな曲線を描き、全体としてクラシックかつ現代的な美しさを兼ね備えています。ザガートらしい「芸術的工業製品」としての価値が、車体全体に行き渡っています。
10年ぶりのBMW×ザガート復活
ザガートがBMWと公式にコラボレーションするのは、2012年の「Z4ザガート クーペ」以来およそ10年ぶりの出来事です。今回のボーフェンジーペン・ザガートでは、その系譜をさらに進化させ、実際に市販化されるGTカーとして仕上げられている点に注目すべきです。コンセプトカー止まりだった過去とは異なり、本モデルは2026年に限定生産でデリバリー予定となっています。
驚異のスペック:603馬力のGTカー
S58型エンジンが生み出す611ps
ボーフェンジーペン・ザガートの心臓部には、BMWのS58型エンジンが搭載されています。この3.0リッター直列6気筒ツインターボエンジンは、最大出力611ps、最大トルク700Nmという圧倒的なスペックを誇り、M4クーペやM4 CSをも凌駕する性能を実現しています。この出力は、BMWの市販モデルの中でもトップクラスに位置づけられます。
0-100km/h加速3.3秒、最高速300km/h超
公称スペックでは、0-100km/h加速がわずか3.3秒という俊足を記録しており、これはスーパーカーと肩を並べるレベルです。さらに、最高速度は300km/hを超えるとされており、長距離移動も余裕でこなすGTカーらしい特性が光ります。スタイリングの美しさと裏腹に、その走行性能はまさにモンスター級といえます。
AWD+8速ATと軽量マフラーで実用性も高い
駆動方式は全輪駆動(AWD)、トランスミッションには8速オートマチックを採用。これにより快適なクルージングからスポーティな走行まで、幅広いシーンで対応可能です。また、排気系にはアクラポヴィッチ製のチタンマフラーが装着され、標準マフラーと比べて約40%の軽量化を実現。サウンド面だけでなく、バネ下重量の軽減にも貢献しています。
ラグジュアリーな内装とビスポーク
選べるラヴァリナレザーとアルカンターラ
ボーフェンジーペン・ザガートのインテリアは、素材と仕立てにおいて極めて高い水準にあります。シートやダッシュボードには、16色から選べるラヴァリナレザーを贅沢に使用。さらに、45色のアルカンターラから自由に組み合わせることも可能で、ユーザーごとに全く異なる表情を持つ車内空間を創り出せます。まさに本物のビスポーク体験が提供されているのです。
アルピナ譲りの質感と手仕事
ステアリングホイールには手縫いのステッチが施され、センターパッドやヘッドレストにはエンブレムがあしらわれています。このようなディテールは、かつてのアルピナが大切にしてきた「工芸的なものづくり」の哲学を色濃く反映しています。アルミ削り出しのシフトパドルなども、機械的な質感と高級感を両立するデザインです。
実用性も兼ね備えたGTカー
単なるショーモデルではなく、ボーフェンジーペン・ザガートは実用面にも配慮されています。後部座席は2名分のスペースを確保しており、荷室も十分な広さを備えています。ラゲッジスペースの内張りやヘッドライナーにもアルカンターラを使用し、高級感と使いやすさを兼ね備えたGTカーとしての完成度を高めています。
アルピナとの違いと継承点
BMW傘下のアルピナと独立系ボーフェンジーペン
ボーフェンジーペンとアルピナの最も大きな違いは、その経営体制にあります。アルピナは現在BMWの完全傘下にあるブランドであり、今後はBMWとロールス・ロイスの間を担う超高級車ブランドとしての道を歩み始めています。一方のボーフェンジーペンは、あくまでも独立系メーカーとして再出発し、自らの価値観と裁量で車づくりを行っています。
GT哲学の継承と新たな挑戦
ボーフェンジーペンは、アルピナが大切にしてきた「快適性と高性能の両立」というプレミアムGTカーの哲学を明確に継承しています。しかし、そのアプローチはより個性的で、コーチビルドやビスポークによる自由度の高さ、デザイン性へのこだわりが特徴です。これにより、旧来のアルピナとは異なる、新しい価値を生み出そうとしています。
将来のラインアップにも期待
現在はBMW M4をベースにしたGTカー1車種のみが発表されていますが、今後ボーフェンジーペンはさらにラインアップを拡充する可能性を秘めています。GTセグメントに加え、クーペやシューティングブレークなど、多様なプレミアムカーが登場することが期待されています。
まとめ:新たな伝説の始まりか
ボーフェンジーペンは、「新生アルピナ」とも言える存在であると同時に、まったく新しい挑戦者でもあります。BMW傘下という制約から解き放たれた彼らは、アルピナ時代の精神を現代的に再構築し、真のプレミアムGTを追求する姿勢を明確にしています。
611psを発揮するエンジン、美しいザガートのボディ、贅を尽くした内装──すべてが高次元で融合したこのクルマは、まさに走る芸術品と呼ぶにふさわしい存在です。2026年の発売を控え、日本市場でも話題を呼ぶことは間違いありません。
なぜなら、日本はアルピナの生産台数の約2割のシェアを持つお得意様の国だからです。よって、新生アルピナといっても過言ではないボーフェンジーペンの車作の哲学を日本は受け入れる可能性が高いと思われます。
BMWとの関係性が薄まったからできることもあると思いますから、今後のボーフェンジーペンの動きが気になる日本の車好きは多いのではないでしょうか?
Reference:autocar.co.uk
よくある質問(FAQ)
Q1. ボーフェンジーペンはアルピナとは別ブランドですか?
はい、ボーフェンジーペンはアルピナ創業家が立ち上げた独立ブランドで、BMW傘下ではありません。アルピナの精神を継承しつつ、新たな価値観を追求するブランドです。
Q2. ベース車両がM4カブリオレである理由は?
ザガート独自のダブルバブルルーフと、ピラーレス構造による美しいサイドビューを実現するために、電動ソフトトップのM4カブリオレが選ばれました。
Q3. スペックは通常のM4とどう違いますか?
最大出力611ps、0-100km/h加速3.3秒、最高速度300km/h超と、M4の上位モデルを超える性能を持ちます。アクラポヴィッチ製チタンマフラーやAWDも装備されています。
Q4. 内装はどれくらいカスタマイズできますか?
ラヴァリナレザー16色、アルカンターラ45色から自由に組み合わせ可能で、完全なビスポーク対応が特徴です。ステアリングやシートの刺繍も選べます。
Q5. ボーフェンジーペン・ザガートの価格や発売時期は?
価格は2025年末に発表予定で、納車は2026年第2四半期から開始される見込みです。生産台数は限定され、非常に希少性が高いモデルとなります。
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