Z4とGRスープラという兄弟車の関係から生まれた、世界に1台だけのクーペ「Zupra」。
これは単なる改造車ではなく、ファンの情熱と技術が融合した“夢のニコイチ”です。
かつて『イニシャルD』にも登場したシルエイティが日産ファンの象徴だったように、ZupraはBMWとトヨタ、二つのブランドを横断した新しい象徴といえるでしょう。
本記事では、Zupraとは何なのか、どのようにして誕生したのか、そしてなぜ「シルエイティより制作が難しい」と言われるのかを解説します。
Zupraとは?Z4とスープラが融合した夢のクーペ

Zupra(ズープラ)とは、BMW Z4とトヨタGRスープラという兄弟車をベースに、両モデルの魅力を“物理的に融合”させた世界で1台のカスタムクーペです。
プロジェクトを手掛けたのはアメリカのYouTuber兼ビルダー「MySupraAdventures」。
2025年のSEMAショーで初公開され、大きな注目を集めました。
Zupraのベースとなったのは、トヨタGRスープラのボディです。
プラットフォームはBMW製の「CLAR」で、Z4と共通しているとはいえ、外装パネルの形状や構造は大きく異なります。
そのため、単純にZ4のパーツを移植しても合うわけではなく、各部を3Dスキャンし、ボンネットやフェンダー、フロントバンパーをワンオフで成形する必要がありました。
Z4クーペが存在しないからこそ生まれたZupra

BMW Z4(G29)はオープン専用モデルであり、クーペボディはラインナップされていません。
過去のE85やE86世代ではZ4クーペが存在しましたが、現行型では廃止されています。
Zupraは、その“存在しないZ4クーペ”を自らの手で具現化したファンの夢といえる存在です。
しかも、ただの再現ではなく、スープラの剛性とZ4のデザインを両立したアグレッシブなフォルムを実現しています。
SEMAで注目を集めた理由
SEMAショーでは数多くのカスタムカーが展示されますが、Zupraはその中でも異彩を放っていました。
BMW純正のキドニーグリルやLEDヘッドライトを組み込みつつ、スープラ本来の骨格を活かしたボディワークは、まるでメーカー純正モデルのような完成度。
さらに、BBS LM-RホイールやMeisterschaft製の4本出しマフラーなど、ハイエンドなパーツ構成も相まって、チューニング業界でも大きな話題となりました。
Zupraの構造と改造ポイント
フロントまわりの再構築
Zupraの最大の特徴は、BMW Z4の顔をそのままスープラのボディに融合させたことです。
フロントバンパー、ボンネット、ヘッドライトはすべてZ4の純正部品をベースに使用していますが、寸法も取り付け位置も一致しないため、単なる交換では成立しませんでした。
制作者はまずスープラのフロントセクションを3Dスキャンし、Z4のパーツをデジタル上で合わせ込み、その後に複合素材でフェンダー形状を再構築しています。
この作業だけで数百時間を要したといわれています。
リアまわりとインテリアのこだわり
リアにはカーボン製ハッチバックが採用され、BMW風のダックテール形状を再現しています。
ルーフも同素材でダブルバブル形状に変更され、外観全体がZ4クーペのような流れるラインを形成しました。
インテリアではレカロシートとMステアリングを組み合わせ、カーボンパネルで仕上げられています。
エンジンはZ4と同じBMW製3.0L直6B58ユニットを搭載し、吸排気系にはMeisterschaft製のクアッドエキゾーストを採用。
見た目だけでなく、走りのフィールもBMWそのものです。
細部まで“BMW仕様”に統一
ボンネット裏のエンジンカバーにはBMWロゴが刻まれ、さらにBBS LM-RホイールやMロゴ入りキャリパーなど、ディテールに至るまで徹底されています。
スープラのプラットフォームを活かしつつ、外観も走行フィールもZ4クーペを再現した完成度は圧巻です。
これこそがZupraが単なるカスタムカーではなく、“架空のBMW Z4クーペ”として受け入れられている理由です。
シルエイティとの比較──「ニコイチ」の象徴が超えられた瞬間
“公認ニコイチ”と異ブランド融合の決定的な違い
シルエイティ(Sil-eighty)は、180SXの車体にシルビアのフロント部分を移植した車両を指します。
1990年代のストリートカルチャーから生まれ、一部は日産が少量生産したことで“公認ニコイチ”としても知られます。
両車はS13系で構造や取り付け規格が近く、ライト/ボンネット/フェンダーなどのパネル交換が比較的ロジカルに成立しました。
つまり、同一メーカー内での互換性に支えられたニコイチです。
対してZupraは、BMW Z4とトヨタGRスープラという異ブランド・異電子アーキテクチャの融合です。
外装パネルの単純置換では合わず、3Dスキャン→ワンオフ成形→取り付け点再設計を経て、エアバッグや配線系、冷却・灯火の法規対応まで整合を取る必要がありました。
私は、この完成度が「純正クーペに見える自然さ」に達している点こそが、シルエイティをリスペクトしつつもその象徴性を一段超えた瞬間だと感じています。
BMWとトヨタの協業、その延長線にあるZupra
兄弟車から生まれたファンメイドの結晶
Zupraの誕生は、BMWとトヨタの協業関係がなければ実現しなかったといっても過言ではありません。
Z4(G29)とGRスープラは共通の「CLARプラットフォーム」を採用し、エンジンやトランスミッション、電装アーキテクチャの多くを共有しています。
そのため、ファンが両モデルをニコイチ的に融合させる基盤が整っていたのです。
メーカーが意図せず作り出した“共通言語”が、Zupraというアウトプットにつながったと言えるでしょう。
メーカー協業が生んだ創造の余白
BMWとトヨタの協業は、単にコスト削減や開発効率化のためではありません。
両社は互いの技術を尊重し合い、「走る歓び」と「信頼性」を両立させることを目的にしています。
Zupraは、その延長線上にファンが自ら生み出した“もう一つの成果物”です。
公式の枠を超えても両ブランドのDNAが違和感なく溶け合ったことは、協業の成功を象徴していると感じます。
Zupraは、ファンの手によって証明された「ブランドの共存可能性」を示す存在なのです。
まとめ:Zupraが示した“夢を形にする力”
Zupraは、BMW Z4とトヨタGRスープラという異なるブランドを融合させ、ファンの夢を現実に変えた象徴です。
メーカーが作らなかったクーペモデルを、個人の情熱と技術で具現化したその姿は、シルエイティ以来の“文化的事件”と呼べるでしょう。
Zupraが教えてくれるのは、技術やブランドを超えて、クルマを愛する気持ちこそが最大の原動力であるということです。
これからもこうした挑戦が、次の時代のクルマ文化を形づくっていくと私は信じています。
Reference:bimmertoday.de
よくある質問(FAQ)
Q1. Zupraとは具体的にどんな車ですか?
Zupraは、トヨタGRスープラをベースにBMW Z4のフロントや意匠を融合した“世界で1台のZ4クーペ風ニコイチ”です。3Dスキャンやワンオフ成形を駆使し、見た目と走りの両面でBMWらしさを高精度に再現しています。
Q2. なぜ「シルエイティより制作が難しい」と言われるのですか?
シルエイティは同一メーカー日産のS13系で互換性が高いのに対し、ZupraはBMWとトヨタという異ブランド・異電子アーキテクチャの統合です。外装寸法、取り付け点、電装・安全系の整合まで高度な再設計が必要になります。
Q3. ベースはZ4とスープラのどちらですか?
ベースはGRスープラのボディです。そこへZ4のフロント周りやディテールを組み合わせ、フェンダーやボンネットをワンオフで再成形。結果として「現行型Z4クーペが存在したら」を体現する外観・質感に仕上がっています。
Q4. エンジンや走行フィールはどちら寄りになりますか?
GRスープラとZ4は兄弟関係にあり、直6B58系ユニットや駆動系の共通点が大きいのが特徴です。排気系や補強のチューニングにより、フィーリングは“BMW直6の気持ち良さ”を強く感じられる方向に仕立てられています。
Q5. 一般ユーザーが同じ仕様を作ることは可能ですか?
理論上は可能ですが、3Dスキャン、ワンオフ造形、電装・安全系の知見など高い技術とコストが必要です。法規適合や保安基準の確認も不可欠なため、専門ショップと綿密に計画することを強くおすすめします。







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