テスラ車のオドメーター、つまり走行距離計が実際の走行とは異なる数値を示している――そんな衝撃的な疑惑が2025年にアメリカで訴訟となり、大きな話題を呼んでいます。EV(電気自動車)のリーディングカンパニーであるテスラが、ユーザーに不利となるようなアルゴリズムで走行距離を「水増し」している可能性があると指摘されており、保証の早期終了やリセール価値の低下といった影響も浮上しています。
本記事では、この訴訟の背景と技術的な問題、さらには法的リスクについて多角的に検証していきます。テスラを含むEVメーカーが直面する「デジタル走行管理の透明性」とは何か、そしてユーザーが今後どのように対応すべきか、専門的な視点から解説します。
- テスラのオドメーターは推定値だった?:テスラの走行距離表示は、電力消費や運転状況を基にした推定値である可能性があります。
- 距離水増しが保証とリセールに影響:表示距離が多いと保証が早く切れたり、中古車価格が下がる恐れがあります。
- 日本でも法的リスクの可能性:定義は曖昧ですが、景品表示法などに抵触する可能性があり注意が必要です。
なぜいまテスラのオドメーターが問題視されているのか
2025年4月、米国カリフォルニア州でテスラ車のオドメーター(走行距離計)に関する訴訟が提起され、大きな注目を集めています。発端は、テスラ モデルYを所有するユーザーが「実際よりも走行距離が多く表示されている」として、同社を相手に起こした訴えです。オーナーは日々の運転記録と照らし合わせても、オドメーターの数値が不自然に増加していると主張しており、保証対象から意図的に外されるような仕組みがあるのではないかと疑念を呈しました。
この件をきっかけに、テスラ関連の掲示板やReddit(米国の大型フォーラム)では、同様の経験を持つとするユーザーの声が相次ぎました。中には
- 「数週間で数百マイル多く記録された」
- 「毎日の通勤距離から考えて不自然すぎる」
という投稿もあり、個別の問題ではなく、より広範囲な問題として浮上しています。
走行距離は車の状態や価値、さらには保証の有効性に関わる重要な指標です。その数値が「正確でない」とすれば、消費者の信頼を損なうだけでなく、中古車市場や法的責任にも大きな影響を及ぼしかねません。これが、いまテスラのオドメーターが社会的に大きく問題視されている理由です。
訴訟内容の詳細とオーナーの実体験
この訴訟を起こしたのは、Nyree Hinton氏というカリフォルニア州在住のモデルYオーナーです。彼女は2022年12月に36,772マイル走行済みの車両を購入しました。その後、通常の通勤と週末の短距離運転のみをしていたにもかかわらず、ある期間から急激に走行距離が増加したと報告しています。たとえば、2023年3月末から6月末にかけて、1日平均72.53マイルが記録されていましたが、彼女の実感値では20マイル以上少ない日が多かったといいます。
さらに、Hinton氏は自身がこれまで所有していた他の車両では半年間の平均走行距離が約6,000マイルだったのに対し、モデルYでは同じ期間に13,228マイルを記録。これは明らかに異常であり、オドメーターが実際の走行を反映していない証拠だとしています。この差異は最大で117%の水増しに相当すると主張されており、車両保証の早期失効、リース契約違反、延長保証の購入強制といった経済的不利益を被ったと述べています。
訴訟では、テスラが「意図的にオドメーターを水増しする設計を施した」と主張されており、もしこれが事実であれば、企業としての倫理や法令遵守に重大な疑義が生じます。特に走行距離を基準にした保証制度や車両評価の仕組みにおいて、ユーザーにとって極めて不利な状態が作られていたことになります。この訴訟は単なる個人のトラブルではなく、EV業界全体にも波及しかねない大きな問題を内包しています。
オドメーターは実測でない?テスラ独自の計測方式とは
テスラのオドメーターが注目される背景には、従来の車とは異なる「距離の測り方」にあります。一般的な自動車では、車輪の回転数やGPSデータなどの物理的な手段を用いて走行距離を計測します。しかし、訴訟内容によれば、テスラの車両ではこれらの方法ではなく、独自のアルゴリズムによって「推定走行距離」が算出されている可能性があるといいます。
具体的には、テスラは特許出願の中で、距離計測に「電力消費量」や「道路状況」「運転スタイル」など複数の要因を加味することを示唆しています。つまり、車両が実際に移動した距離というよりも、「これくらいの走行をしたと推測される」という数値が表示されているケースがあるというのです。このシステムでは、登坂走行や渋滞中の低速運転など、エネルギー消費が大きくなる場面では走行距離も増加して表示される可能性があります。
このような「距離の換算係数」は動的に変化し、ユーザーが気づかないうちにオドメーターの数値を押し上げる要因となります。問題は、この方式がオーナーに説明されておらず、また車両の取扱説明書や公式ドキュメントでも明示されていない点にあります。実測に基づかないオドメーター表示が、保証や契約条件に直接影響を与えるのであれば、その透明性の欠如は法的にも問われるべきものです。
保証とリセールバリューへの深刻な影響
テスラ車において走行距離が保証範囲を決定する重要な指標であることは間違いありません。たとえば、MモデルYの新車保証は4年間または50,000マイル(約8万km)のいずれか早い方で終了するという明確なルールがあります。しかし、オドメーターの数値が実際より多く表示されていた場合、想定より早く保証が失効する可能性があるのです。
実際、訴訟を起こしたオーナーも「保証が切れる直前のタイミングで距離が急増した」と述べています。これは偶然とは考えにくく、保証範囲内の無料修理を避けるために意図的にオドメーターが加算されていた可能性も否定できません。さらに、保証の早期終了によって本来なら無償対応されるはずの不具合に対して高額な修理費用を請求されるケースも考えられます。
また、中古車市場においても走行距離は価格評価の大きな要素となります。仮に実際には10,000kmしか走っていない車両が、オドメーター上では15,000kmと表示されていた場合、それだけで市場価値が下がるリスクがあります。消費者にとっては「見えない損失」となり、取引の公平性が損なわれます。したがって、オドメーターの信頼性は個々の契約や査定だけでなく、市場全体の健全性にも関わる重大な要素といえるのです。
法律的観点から見たオドメーター問題のリスク
テスラのオドメーター表示に関する問題は、単なる技術的な誤差にとどまらず、法的にも重大なリスクを孕んでいます。自動車の走行距離は、保証期間の算出だけでなく、リース契約、車両の再販価値、保険料率などにも関係する重要な数値です。ゆえに、その表示が正確であることは法的にも一定の義務が課される場合があります。
米国では中古車販売時にオドメーターの改ざんや虚偽表示が連邦法によって禁じられており、違反した場合は刑事罰の対象となります。テスラの場合、物理的な改ざんではなく、アルゴリズムによる自動的な数値補正が行われているとされますが、その影響がユーザーに明確に伝えられていない点が問題とされています。「推定表示」としての説明や警告がなければ、消費者保護の観点から不当表示に該当する可能性があります。
日本の場合は法律には「走行距離計(オドメーター)」という言葉自体の明確な技術的定義は存在しません。しかし、実務上は「車両に備えられた装置によって計測された走行距離」が根拠として扱われており、推定や演算による距離表示がそれに該当するかはグレーゾーンです。走行距離の表示に関しては、道路運送車両法施行規則 第32条の3により中古車販売時に記録簿等の裏付けが必要とされており、改ざんが明確であれば道路運送車両法 第99条の2により刑事罰の対象となります。
また、実際の走行よりも多く表示されるようなアルゴリズムを搭載し、それを明示せずに使用者に保証や契約条件を課した場合には、景品表示法(優良誤認表示)に該当する可能性もあります。さらに、重要な情報を意図的に開示しなかったと認定された場合は、消費者契約法に基づく契約の無効や損害賠償請求の根拠にもなり得ます。
現時点では、実測に基づかない“推定距離表示”が法的に直接禁止されているわけではありません。しかし、走行距離=実走行を反映しているという社会的な理解に反し、それを説明しないまま保証制度などに使用している場合、重大な説明義務違反や法令違反として問題視されるリスクは極めて高いといえます。今後は、推定値と実測値の併記や、アルゴリズムによる算出である旨の明示が法的義務として求められる可能性もあります。
EVユーザーと社会が求める“走行距離の透明性”
この問題は単にテスラという一企業だけの話ではありません。今後、より多くの自動車がデジタル制御とアルゴリズムによって管理される時代に突入する中で、走行距離という「基本的かつ信頼されるべき情報」が不透明化することのリスクが浮き彫りになっています。ユーザーが車両の状態を正確に把握できなければ、保守・点検・再販などあらゆる面で不利益を被る可能性があります。
EVは従来のガソリン車に比べて整備頻度が少ない一方、電池劣化やソフトウェア制御の影響で、走行距離の正確性が重要な意味を持ちます。そのため、オーナー自身が日常的に走行記録を取り、エネルギー使用状況をモニターすることが推奨されます。スマートフォンアプリやOBDデバイスなどを活用すれば、メーカー側の表示とユーザー側のデータを比較することが可能です。
また、メーカーにはオドメーターのアルゴリズムや表示仕様について、より明確な説明責任が求められます。ユーザーにとって納得のいく情報開示がない限り、EV社会の信頼性そのものが揺らぎかねません。今回のテスラの訴訟問題は、EV業界全体が信頼性と透明性の両立を改めて考える契機となるでしょう。
Reference:carscoops.com
よくある質問(FAQ)
1. テスラのオドメーターは実際の走行距離と違うのですか?
はい、一部のオーナーの証言や訴訟によれば、テスラのオドメーターは実際の走行距離とは異なり、「推定値」として表示されている可能性があります。これはGPSや車輪の回転数ではなく、エネルギー消費や運転行動などの要素を元に計算されているためです。
2. なぜテスラは実測ではなく推定で走行距離を表示するのですか?
テスラは、自社の特許情報において、走行距離を「電力消費ベースで算出するアルゴリズム」により計測するとしています。これにより、道路状況や運転スタイルによって変動する換算係数が用いられると考えられています。ただし、ユーザーに明確な説明がなされていない点が問題視されています。
3. オドメーターの表示に法的な問題はありますか?
法的に問題となる可能性はあります。アメリカや日本では、走行距離の虚偽表示は消費者保護法や不当表示防止法などに抵触する可能性があり、意図的な水増しが認められた場合は、行政処分や損害賠償の対象になる場合があります。
4. 自分のテスラの走行距離が正しいか確認する方法はありますか?
はい、日々の走行を記録することで確認が可能です。スマートフォンアプリやGPSロガー、OBD2対応の診断機器などを使用することで、実際の移動距離をモニタリングし、オドメーターと比較することができます。
5. テスラ以外のEVメーカーでも同様の問題はありますか?
現在のところ、テスラ以外の主要EVメーカー(トヨタ、日産、BMWなど)では、同様の訴訟や大規模な報告は確認されていません。ただし、今後ソフトウェア制御が主流になるにつれ、距離表示の透明性に対する社会的関心は高まると予想されます。
※本記事は公開情報に基づき、一般的な法的観点から解説したものであり、特定の事案についての法律的助言を行うものではありません。具体的な対応については、専門の弁護士や行政機関にご相談ください。
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