BMWが放つ次世代電気自動車「iX3 NA5」に、BMWは試乗する機会を一部のジャーナリストに提供しました。これは、BMWが掲げる全く新しい車両アーキテクチャ「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」の第一弾モデルであり、EV市場における革新的な一歩となります。
走行性能、航続距離、インテリアの先進性、そして充電速度に至るまで、従来のBMWらしさを残しながらも他社EVとは一線を画す仕上がりになっていました。
このテスト試乗記では、なぜiX3 NA5が「他社EVと異なるのか」を軸に、その技術的背景と実際の運転体験を通して徹底解説していきます。Neue Klasseの登場は、単なるモデルチェンジにとどまらず、BMWがEV戦略を根底から見直した「電動化の転換点」なのです。
- Neue Klasseの革新技術:EV専用プラットフォームで走行性能とUXを革新。
- 圧倒的な航続距離と充電性能:最大800km走行&400kW急速充電に対応。
- BMWらしさをEVに継承:「走る歓び」を支える制御技術と操縦性。
Neue Klasseとは何か?BMWの次世代EV戦略
BMWが描く未来の車両基盤、「Neue Klasse」の正体

「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」とは、BMWが次世代の電気自動車とハイブリッド車のために開発した新しい車両プラットフォームです。
これは1960年代に登場した初代Neue Klasseと同様、BMWの技術革新の象徴とされており、2026年にデビューするiX3 NA5がその第一号車となります。
800Vシステムと第6世代eDriveがもたらす進化

Neue Klasse最大の特徴のひとつが、「800V」の高電圧アーキテクチャの採用です。これにより、400kWという超高速充電を実現し、わずか10分で約350kmの充電が可能になります。
また、新開発の第6世代eDriveシステムでは、バッテリーのエネルギー密度が約20%向上し、最大で800km(WLTP)の航続距離を誇ります。これはテスラModel YやアウディQ6 e-tronを凌駕する水準です。
4つのスーパーブレインと「Heart of Joy」の司令塔機能

Neue Klasseでは、従来のECU(電子制御ユニット)群を統合する4つの高性能コンピューターを採用。その中でも注目すべきは、「Heart of Joy」と呼ばれる車両運動制御専用プロセッサです。
制御応答時間は従来の10〜50msから1msに短縮され、瞬時にタイヤのグリップを把握して最適なパワーやブレーキを分配します。これにより、運転者は一段と滑らかで反応の早い操縦性を体感できます。
他社EVとの構造的な違い
一般的なEVは、複数のサプライヤー製ソフトウェアや制御ユニットを組み合わせた構造が多いですが、Neue Klasseでは制御からUXまでBMWが自社開発を一貫して行っています。
そのため、システム全体の連携性と応答速度が飛躍的に向上しています。この点が、走行フィールや安全性、操作レスポンスにおいて「他社EVと明確に異なる」と言える理由です。
徹底テスト試乗で見えた走行性能の真価とは?
50 xDriveの駆動構成とパワースペック
新型BMW iX3 NA5の50 xDriveは、前輪に交流誘導モーター(ASM)、後輪に励磁同期モーター(EESM)を組み合わせたAWD構成です。駆動の主役は後輪側に設定されており、BMW伝統のFR的な操縦性が意識されています。
システム全体での出力はおよそ300kW(約408馬力)、トルクは600Nm以上とされており、これにより0-100km/h加速はわずか5秒未満で達成されます。
俊敏かつ自然なレスポンスに驚き
実際の加速フィールは、いわゆる“ガツンとくるEV的”な突発的トルクとは異なり、あくまでBMWらしい線の通った加速感でした。
踏み込みに対する反応はリニアで、路面との接地感を損なわずスムーズに速度を上げていきます。都市部の合流や追い越し加速は余裕そのものです。
1msの制御応答が生む“バーチャルアジリティ”
特筆すべきは「Heart of Joy」による超高速制御です。従来の制御応答が10〜50msであるのに対し、Neue Klasseでは1msでタイヤのグリップ状況を検知し、最適なトルク配分やブレーキ制御を行います。
結果として、まるで重さを感じさせない「バーチャルな俊敏性」が実現されています。重心の高いSUVでありながら、車体の動きにまったく無駄がなく、まるでスポーツセダンのような挙動を見せます。
ワインディングと高速道路での試乗インプレッション
郊外のワインディングでは、ステアリングに対する車両の動きが非常に素直で、姿勢制御も優れています。連続したカーブでもリアの安定性が保たれ、ラインを外すことはありませんでした。
高速道路では、スポーツモード選択時にステアリングの応答性がさらに向上し、路面からの情報も明確に伝わってきます。走行中の姿勢変化も最小限に抑えられており、「安心感のある速さ」がこのクルマの持ち味だと感じました。
航続距離と充電性能がもたらす日常使いの安心感
最大800km超えの航続性能
BMW iX3 NA5の航続距離は、WLTP基準で最大800kmと発表されています。中国のCLTC基準では900km、EPA換算でも約640kmが見込まれており、現行EVの中でもトップクラスの数値です。
もちろん実走行では多少の変動はあるものの、高速巡航でも500km以上を余裕で走行できるポテンシャルを感じました。
400kW対応の超高速充電性能
注目すべきは最大400kWという驚異的な充電能力です。これは800Vシステムによる恩恵であり、条件が整えば10分間の充電でおよそ350km分の電力を補給できます。
Ionityや一部のEVgo急速充電器では対応可能ですが、日本国内のインフラはまだ整備中のため、今後の課題として注視すべき点です。
第6世代バッテリーの進化と温度制御技術
搭載されている第6世代eDrive用バッテリーは、円筒型セルを採用し、前世代よりもエネルギー密度が約20%向上しています。これによりバッテリー容量は推定で90〜100kWhとされ、長距離走行を実現しています。
また、冷却システムも進化しており、高速充電時や夏場でも熱暴走を防ぐ設計がなされています。
日常使いでの安心感と予測精度
試乗中、車両のナビと連動したエネルギー管理機能が印象的でした。走行ルートや標高データを基に、残りの電力と航続距離を予測する機能が高精度で、航続距離の“目安”ではなく“計画”として使えるレベルにあります。
これにより、ロングドライブ中の「バッテリー切れ」への不安を最小限に抑えることができます。
先進のインフォテインメントと運転支援の完成度
3画面構成がもたらす没入型インターフェース
BMW iX3 NA5には、最新の「Panoramic iDrive」が搭載されています。
43インチ相当のパノラミックディスプレイがフロントウィンドウ下に投影され、中央のインフォテインメントタッチスクリーン、そしてAR(拡張現実)対応のヘッドアップディスプレイ(HUD)が組み合わさった3画面構成です。
視線移動を最小限に抑え、直感的な情報取得が可能となっています。
Shy Techと音声操作でUXを一新
物理スイッチの数は大幅に削減され、「Shy Tech」によって必要なタイミングでのみボタンが浮かび上がる設計が採用されています。
さらに、AI対応の音声アシスタント「BMWパーソナルアシスタント」は自然言語での操作が可能で、車内の設定やナビ、音楽の操作が簡単に行えます。
快適な自動運転と“監視しすぎない”設計
自動運転支援機能は、ドライバーの目線や挙動をモニタリングするカメラと連動し、過剰な介入を抑える工夫がなされています。
たとえば、車線逸脱防止機能はドアミラー確認後の意図的な操作には介入しません。この「支援はするが主役はあくまでドライバー」という思想が、BMWらしい運転体験に繋がっています。
iDriveコントローラー廃止への賛否
従来のiDriveコントローラーは廃止され、操作はすべてタッチまたは音声に移行しています。
これにより操作が直感的になった一方で、走行中の操作精度という点では若干の課題も感じました。慣れの問題もありますが、物理ダイヤルの復活を望む声も一定数あるかもしれません。
テスラ モデル Yやアウディ Q6 e-tronとの競合で光る“らしさ”
テスラ モデル Yとの加速・UI思想の違い
テスラ モデル YとBMW iX3を比較すると、加速性能はモデル Y Long Range AWDが0-100km/hを約4.6秒で駆け抜け、数値上ではやや優れています。
一方、BMWは数字よりも“加速の質”にこだわり、スムーズかつコントローラブルなレスポンスを実現しています。
UI面では、モデル Yがタッチ操作一辺倒なのに対し、iX3では視線誘導を重視した3画面構成で、操作に対する安心感が違います。
アウディ Q6 e-tronとの快適性・質感比較
アウディ Q6 e-tronは高級感と快適性に秀でたモデルですが、iX3はその領域にも食い込んできています。
乗り心地に関しては、Q6 e-tronのエアサスペンションによる柔らかさに対して、iX3はパッシブサスながらもしっかりとしたダンピングとシャーシの剛性で、意外なほどの上質さを実現しています。
内装の質感もミニマルかつ高機能で、質的な“差”より“方向性の違い”と言えます。
BMWらしい走りのDNAをEVにも注入
iX3が他社EVと最も異なるのは、「運転が楽しいEV」である点です。
前後に配置された2つのモーターをBMW独自の「Heart of Joy」が1ms単位で制御し、リア寄りの駆動配分と自然なロールを組み合わせることで、EVにありがちな“無機質な加速マシン”から脱却しています。
ワインディングでも思わず笑顔になるようなハンドリングは、まさに“BMWらしさ”の継承です。
気になる点:価格と物理インターフェースの簡素化
唯一の懸念点を挙げるとすれば、欧州価格で約6万ポンド(約1,200万円前後)とされる価格帯と、物理インターフェースの削減による操作感の変化です。
EV化が進む中、操作性のシンプル化は避けられない流れとはいえ、BMWファンにとっては“味”のひとつでもあるため、評価は二分される可能性があります。
ただし、それを補って余りある走行性能と完成度は、十分に選ばれる理由となるでしょう。
まとめ:iX3はスペック+運転する歓び
BMW iX3 NA5は、単なる新型EVではなく、BMWが次世代モビリティに向けて放つ“新しい常識”の象徴と言えます。
Neue Klasseによる統合制御アーキテクチャや、1ms単位で車両を操る「Heart of Joy」は、まさに走りの哲学と最新ソフトウェアの融合です。
この技術群は今後登場予定のi3 NA0などにも順次展開され、BMWのラインアップ全体をEV主軸に塗り替えていくことが予想されます。
数字や機能では測りきれない、“運転する歓び”という価値を、BMWは再びEVの世界で証明しようとしています。
その根源はこれまでの3シリーズやX7まで一貫して共通する思想です。ICEかEVか?という二択ではなく、共にBMWが作る「駆け抜ける歓び」を感じる車である、ということ。
BMWはEVにも感性を求める。その1つの答えがiX3なのかもしれません。
Reference:motortrend.com
よくある質問(FAQ)
Q1.BMW iX3 NA5の航続距離はどれくらいですか?
WLTP基準で最大800km、中国基準では900km、EPA換算で約640kmとされています。
Q2.充電にどれくらい時間がかかりますか?
400kWの急速充電に対応しており、約10分で約350km分を充電可能です。
Q3.旧iX3とNA5の違いは何ですか?
Neue Klasseという新アーキテクチャを採用し、プラットフォーム・制御系・内装UIが一新されています。
Q4.Panoramic iDriveとは何ですか?
43インチ相当のディスプレイとAR HUD、タッチスクリーンによる3画面構成の新世代UXです。
Q5.自動運転機能は搭載されていますか?
搭載されていますが、ドライバーの意図を優先する設計で、快適かつ自然な支援が特徴です。
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