2025年、中国市場向けに新たに登場したBMW 2シリーズ グランクーペ「F78」は、従来の「F74」とは異なるロングホイールベース仕様の専用モデルです。BMWが中国専用に設計・開発したこのF78は、後席の快適性と存在感のあるプロポーションを重視し、F74と一線を画す独自の進化を遂げています。
本記事では、このF78とは何か、そして日本で販売されているF74とどのような違いがあるのかを詳しく解説します。
- F78はF74をロング化した中国専用モデル:ホイールベース110mm延長で後席空間を大幅に拡大。
- 高出力な225LとM235L xDriveを搭載:F74同等の性能を持ち、中国向けに調整された仕様。
- 日本未導入の地域特化戦略モデル:BMWの中国専用開発によるローカライズの好例。
F78とは何か?ロングホイールベース化された2シリーズの全貌
F78は中国専用の新型モデル
BMW F78は、従来の2シリーズ グランクーペ(F74)をベースとしながら、中国市場のニーズに応えるために設計された専用モデルです。最大の特徴はホイールベースが110mm延長された点で、全長は4,660mm、ホイールベースは2,780mmに達します。これにより、特に後席の居住性が大きく向上し、より広々とした室内空間が実現されています。
F78にはBMW 225LとM235Lの2モデルが用意され、いずれもBMW中国の瀋陽工場で現地生産されます。なお、このモデルはあくまで中国専用であり、日本を含む他市場での販売予定はありません。
F74との基本的な系譜と設計思想
F74は日本を含むグローバル市場向けに展開されているBMW 2シリーズ グランクーペで、F78はそのロングホイールベース派生版です。両モデルともFFベースのUKL2プラットフォームを共有しており、スタイリングや基本構造には共通点が多く見られます。
しかしF78ではルーフラインやリアドアのデザインが微調整されており、より伸びやかでエレガントなシルエットを実現。F74が“コンパクトプレミアム”を志向しているのに対し、F78は“ミッドサイズに近い存在感”を狙っています。
中国市場に向けた開発の背景と目的
中国市場では、セダンやクーペであっても後席空間を重視する傾向が強く、富裕層やビジネス層をターゲットとしたロングホイールベースモデルが人気を集めています。BMWはこの市場特性に合わせて、従来3シリーズや5シリーズで導入していた「L」仕様の戦略を、2シリーズにも拡大適用しました。
F78の開発目的は、若年層の富裕層が求める“走りと快適性の両立”に応えること。これにより、エントリークラスでも高級感とパーソナルラグジュアリーを両立する新たな価値を提供しています。
F74との比較①:サイズ・室内空間・デザイン
110mm延長のホイールベースがもたらす変化
BMW F78最大の特徴は、ホイールベースがF74に比べて110mm延長されている点です。これは単なる寸法の違いにとどまらず、車内空間と走行特性の両面に影響を及ぼします。
F74のホイールベースは2,670mmであるのに対し、F78は2,780mm。これにより後席のレッグスペースが大きく確保され、長時間の乗車でも快適さを維持します。また、ホイールベースの延長は走行安定性にも寄与しており、高速巡行時の直進安定性が向上し、ゆったりとした乗り心地を実現しています。
F74より大きいF78のボディサイズ
F74のボディサイズは全長4,527mm、全幅1,800mm、全高1,420mmですが、F78では全長が4,660mmに達します。幅や高さは大きく変わらないものの、全体のプロポーションにおいて長さの違いが明確に視認でき、特にサイドビューではその差が際立ちます。
この伸長により、2シリーズでありながら3シリーズに迫る存在感を獲得しており、コンパクトセグメントからやや上級志向のスタイルへと進化しています。結果として、視覚的にも実用的にも「クラスを超えた余裕」を演出するデザインとなっています。
後席空間の快適性、リアドア設計の違い
F78のリアシートは、明らかにF74よりもゆとりがあります。特に足元空間が格段に広がり、膝周りにも余裕が感じられる設計です。
中国市場ではドライバー付きで移動するケースも多く、後席の快適性が車選びの大きな要素になります。そのためF78ではリアドアのサイズも拡大され、乗降性が向上。ドアの開口角やヒンジの配置にも工夫が見られ、実用性が高められています。リアシートにリクライニング機構は備わらないものの、全体的にF74よりも上質な乗り心地が追求されています。
エクステリア上の差異とロング仕様特有のシルエット
F78のデザインは、F74と基本造形を共有しながらも、ロングホイールベース化により伸びやかで優雅なシルエットに変貌しています。特にルーフラインは後方に向かって滑らかに伸び、クーペライクな美しさを維持しつつ、リアドア周辺の伸長と自然に調和しています。
また、F78でも「Iconic Glow」と呼ばれる発光グリルが採用されており、夜間の存在感が高まっています。これにより、F78は単なるロングホイールベース版ではなく、独自性のある外観を持つモデルとして成立しています。
F74とF78の比較表:サイズ・室内空間・デザイン
項目 | F74(日本仕様) | F78(中国仕様) |
---|---|---|
全長 | 4,527mm | 4,660mm(+133mm) |
全幅 | 1,800mm | 1,800mm(同一) |
全高 | 1,420mm | 1,420mm(同一) |
ホイールベース | 2,670mm | 2,780mm(+110mm) |
リアドア長 | 標準サイズ | 延長設計、乗降性向上 |
リアレッグスペース | やや狭め | 大幅拡張、快適性向上 |
ルーフライン | 標準クーペ形状 | 後方に伸びた滑らかな形状 |
外観の印象 | コンパクトスポーティ | 伸びやかでエレガント |
特徴装備(デザイン) | Iconic Glowグリル※オプション | Iconic Glowグリル搭載 |
F74との比較②:エンジン性能・装備・生産体制
M235L xDriveと225Lのエンジン性能と欧州仕様との違い
F78に設定される225LとM235L xDriveはいずれも2.0L直列4気筒ターボエンジンを搭載しています。225Lは最高出力204psで、欧州の223i(218ps)よりやや控えめな設定ですが、日本仕様F74の220i(156ps+MHEV)より高出力です。M235L xDriveは、Mパフォーマンス専用チューニングが施され、最高出力300ps、最大トルク400Nmを発揮。これは日本のM235i xDriveと同等のスペックです。
7速DCT搭載と0-100km/h加速性能
両モデルとも電子油圧制御式の7速DCT(ダブルクラッチ・トランスミッション)を採用しており、ダイレクトでスムーズな変速が特徴です。特にM235L xDriveでは、0-100km/h加速を5.0秒で達成。これはF74のM235i xDrive(4.8秒)とほぼ同等の実力であり、Mパフォーマンスモデルとしての動力性能は健在です。一方で225Lの加速性能は公式に明かされていませんが、実用域でのトルク感と静粛性が重視されたチューニングと考えられます。
装備の違い:後席の快適性以外の違いはない
F78ではアンビエントライト、10.7インチのカーブド・ディスプレイ、Apple CarPlay/Android Auto、パノラマサンルーフなど、現代的な快適装備は一通り揃っています。日本仕様F74でも類似の装備は多く見られますが、F78は後席快適性重視である点がより明確です。
中国・瀋陽工場での現地生産の意義
F78は中国・瀋陽にあるBMWブリリアンス・オートモーティブの大東工場で生産されています。この拠点は中国市場向けのロングホイールベースモデル(3シリーズLや5シリーズLなど)を数多く手がけており、F78もその流れを汲んだ現地戦略車です。
現地生産により関税や輸送コストを削減できるほか、地域の法規制や顧客ニーズに迅速に対応できるのが大きな利点です。F74がドイツ製であるのに対し、F78は徹底したローカライズ戦略のもとに生まれたモデルといえます。
F78はなぜ中国専用なのか?文化的・戦略的背景の深掘り
中国におけるロングホイールベース車の人気要因
中国の自動車市場では、セダンやクーペなどのCセグメント以上の車種において、ロングホイールベース仕様が根強い人気を誇ります。その背景には、運転手付きで後席に乗車する文化、家族全員で移動する機会の多さ、そして全長=高級感という視覚的価値観が存在します。
BMWは以前から3シリーズLや5シリーズLなどを中国専用に展開してきましたが、F78はそれを2シリーズにまで拡張した試みであり、小型セグメントでも後席の快適性を重視するニーズに応えた形です。
富裕層・若年層に向けたラグジュアリー戦略
F78のもう一つの重要な位置付けは、「若年層の富裕層」や「初めてのBMW購入層」をターゲットにしたプレミアムモデルであることです。中国では高級ブランドの所有が社会的ステータスとして重視される傾向があり、特に都市部の20〜30代がラグジュアリーコンパクトカーに強い関心を持っています。
BMWはその層に向けて、エレガントな外観と広い後席空間を両立するF78を設計しました。結果としてF78は、若年層に「小さな高級車」という新しい選択肢を提供しています。
まとめ:F78に見るBMWのグローバル戦略と今後の展望
中国市場に対するBMWの柔軟な対応力
F78は、BMWが中国市場の消費者ニーズを的確に把握し、それに最適化された製品を提供する能力の高さを示す好例です。3シリーズや5シリーズと同様、2シリーズにもロングホイールベース戦略を導入したことで、同社はより広範な層へのアプローチを可能にしました。
F78は単なる派生モデルではなく、中国市場で勝ち抜くための「専用戦略モデル」として設計されており、BMWの地域対応力の象徴的存在といえます。
F78とF74を通じて見える地域ごとの商品最適化の意義
F78(中国)とF74(グローバル)の並行展開は、BMWが各市場ごとに異なる顧客ニーズや法規制、文化背景に応じて製品を最適化していることを明確に示しています。
F74が欧州や日本で求められる「スポーティで機動力あるプレミアムコンパクト」であるのに対し、F78は「後席を重視したエレガントなロング仕様」という全く異なる価値を提供しています。このような多角的な製品戦略こそが、BMWがグローバル市場で競争力を維持する原動力となっています。
F78の日本導入はあるのか?
中国市場専用装備や現地生産体制によってコスト設計が異なる点も、グローバル展開を阻む要因となっています。したがってF74が引き続き日本市場での主力として位置付けられる一方、F78はあくまで中国市場特化型の戦略車といえます。
いろいろな問題はあると思いますが、2シリーズグランクーペのロングホイールベース版のニーズは一定数日本でもあると思います。日本では駐車場の問題があり現行型のG20型3シリーズも既に全幅が1800mmを超えています。日本の立体駐車場の多くは全幅1800mm以下であることを考えるとF78が導入されれば3シリーズの購入を諦めていた層がBMWを選択肢に入れることが可能になります。
さらに、中国生産となれば輸送費などが安くなり販売価格も安くなることが考えられます。この数年の急激な円安で値上げを繰り返してきたBMW JAPANにとっても売りやすい車種を手に入れることになるのではないでしょうか?
Reference:bimmertoday.de
よくある質問(FAQ)
Q1. F78とF74の一番大きな違いは何ですか?
最大の違いはホイールベースの長さです。F78はF74に比べて110mm長く設計されており、特に後席の足元空間が広くなっています。また、F78は中国市場専用に開発されたモデルで、リアドアやルーフラインも設計が変更されています。
Q2. F78 M235L xDriveの性能はF74のM235i xDriveと同じですか?
スペック上は非常に近く、どちらも2.0L直列4気筒ターボエンジンで最高出力約300ps、最大トルク400Nmを発揮します。どちらも四輪駆動(xDrive)で、0-100km/h加速はF78が5.0秒、F74が4.8秒と僅差です。
Q3. F78は将来的に日本でも販売されますか?
現時点ではその予定はありません。F78は中国市場のニーズに特化して設計されたローカルモデルであり、日本ではF74が引き続き販売されています。日本市場ではロングホイールベース仕様の需要はあると思いますが、解決しなければならない課題は多いと思います。
Q4. F78の生産拠点はどこですか?
F78は中国・瀋陽(Shenyang)にあるBMWブリリアンス・オートモーティブの大東工場で生産されています。中国国内向けのBMW 3シリーズLや5シリーズLと同様、現地専用モデルの生産体制が整備されています。
Q5. なぜ中国ではロングホイールベースの車が好まれるのですか?
中国では後席に重視を置いた車選びが主流で、運転手付きで利用されることも多いためです。また、クルマの全長が大きいほど高級に見られるという文化的背景もあり、ロングホイールベース車は「ステータス」としての価値が高いとされています。
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