BMWは現在、電動化とデジタル化の波を受けて大きな変革期を迎えています。その中核を担うのが「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」という次世代の車両アーキテクチャです。2025年以降に本格導入される予定のこの概念は、単なるEVのプラットフォームにとどまらず、BMWのデザイン哲学やユーザーインターフェース(UI)までも根本から見直す壮大なプロジェクトです。
この“ノイエ・クラッセ化”の動きは、今後発売される新型EVだけでなく、既存の内燃機関車にも影響を与え始めています。その象徴的な第一歩が、BMW 5シリーズ(G60型)のLCI(マイナーチェンジ)です。本来であれば控えめな変更にとどまるLCIで、BMWが大きなデザイン変更とテクノロジーの刷新を行おうとしている背景には、どのような意図があるのでしょうか。
本記事では、5シリーズLCIを皮切りに進むBMW全体の“ノイエ・クラッセ化”の真意と、今後の展望について解説します。
- 5シリーズLCIでノイエ・クラッセデザインを初導入:BMWは5シリーズのマイナーチェンジで、次世代EV向けデザインを先行採用しました。
- 他シリーズにも共通デザインを展開予定:X3や3シリーズなどにも同様のデザインやUIが今後導入されていきます。
- EVと内燃機関を統一する戦略を推進中:BMWはパワートレインを問わず、全モデルで体験の統一を図っています。
そもそも「ノイエ・クラッセ」とは何か?

「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」とは、直訳すると「新しい階級」という意味で、BMWにとっては歴史的な意味を持つ言葉です。1960年代初頭、BMWは経営危機から脱するためにこの「ノイエ・クラッセ」シリーズを投入し、中型車市場で大成功を収めました。この成功が、現在のBMWの礎となったのです。
そして今、BMWはこの名を再び蘇らせました。2025年以降に導入される「ノイエ・クラッセ」は、完全なEV専用アーキテクチャとして設計されており、パワートレインだけでなく、ソフトウェア、UI、そして車両全体の構造が根本的に再定義されています。
最大の特徴は、インテリアにおける「BMWパノラミックビジョン」と呼ばれるヘッドアップディスプレイをはじめとした、新たなデジタル体験です。操作系のシンプル化、物理ボタンの最小化など、次世代のBMWとしての使いやすさと美しさが両立されています。つまり「ノイエ・クラッセ」とは、BMWが今後の10年に向けて再設計した“新しいBMW像”そのものであるといえるでしょう。
5シリーズG60 LCIに見る“ノイエ・クラッセ化”の兆候

2023年に登場したBMW 5シリーズ(G60型)は、まだモデルライフ前半にあるにもかかわらず、すでに大規模なLCI(マイナーチェンジ)が計画されています。特に注目されているのが、ノイエ・クラッセデザインの要素を先行的に取り入れるという点です。
フロントフェイスでは、よりスリムでシャープなヘッドライト、立体感を強調したキドニーグリル、そしてフラット化されたバンパーデザインが採用される見込みです。これらの変更は、空力性能を高めるだけでなく、ノイエ・クラッセモデルに共通する“未来的な印象”を与えることを目的としています。
インテリアにおいても変化は顕著です。iDriveの物理ボタンの数が大幅に削減され、代わりに大型のパノラミックスクリーンとジェスチャー操作などが導入されるとみられています。これは、ノイエ・クラッセで採用予定の「BMWパノラミックビジョン」への布石ともいえるでしょう。
さらにi5 M60を含むEVグレードとガソリンモデルのインテリアや外観の違いが少なくなり、シリーズ内での統一感が図られています。BMWはこのLCIを通じて、今後のモデル群でのデザイン・UIの共通化を先取りしようとしているのです。
なぜBMWは5シリーズLCIで導入したのか?
BMW 5シリーズのG60型は、2023年にフルモデルチェンジされたばかりの最新世代です。それにもかかわらず、2025年にも大規模なLCIを行うというのは異例の対応だといえます。その背景には、複数の理由が存在します。
まずは競争環境の変化です。ライバルであるメルセデス・ベンツの新型Eクラスや、アウディA6の次期モデルが次々と刷新される中、BMWも存在感を保つためにインパクトあるアップデートが求められています。デザインやUIの大幅変更は、その一環といえるでしょう。
次に、BMW自身の戦略転換です。ノイエ・クラッセという新時代の方向性をブランド全体に浸透させるためには、既存モデルにも先行的な要素を反映する必要があります。G60 LCIは、まさに“橋渡しモデル”としての役割を担う存在です。
これにより、ユーザーに次世代のBMWの魅力を先取りしてもらうと同時に、製品ライン全体での一貫性とブランドイメージの強化を図る狙いがあるのです。
他のシリーズはどうなる?X3・3シリーズへの波及

5シリーズLCIで先行導入されるノイエ・クラッセのデザイン要素や操作系は、今後他の主要シリーズにも順次拡大していくと考えられています。特に注目されているのが、次期X3(G45)と3シリーズ(G20系)のLCIです。
X3は2025年にフルモデルチェンジが予定されており、新型EV「iX3(仮称)」とともにノイエ・クラッセの設計思想を大々的に取り入れる見込みです。外観はシンプルかつ空力重視のシルエットとなり、インテリアにはBMWパノラミックビジョンを中心とした新しいUIが搭載されると見られています。
一方で、現行3シリーズのLCIでもUIの刷新が検討されており、物理ボタンのさらなる簡略化やソフトウェアアップデートによるユーザー体験の向上が図られる可能性があります。これにより、EV・ICEの垣根を越えた「統一されたBMW体験」が実現していくと期待されています。
重要なのは、ノイエ・クラッセの要素がEV専用に限定されていない点です。内燃機関モデルにおいても、同様のインターフェースやデザインが反映されることで、BMW全体としてのブランディングが強化されていくのです。
BMWの今後の戦略とノイエ・クラッセの位置づけ
BMWは今後、EVと内燃機関車の“二本立て”戦略を続けていく方針です。欧州市場を中心にEVへのシフトが進む一方で、アメリカやアジアの一部地域では依然としてガソリン・ディーゼル車の需要が根強く存在しています。こうした多様な市場に対応するため、BMWは柔軟にプラットフォームやパワートレインを使い分ける構えです。
この戦略の中で、ノイエ・クラッセは単なる新しい技術プラットフォームではなく、BMW全体のブランドを再定義する象徴的な存在として位置づけられています。新しいUIやデザインだけでなく、製造工程、デジタル体験、車両のライフサイクル全体において、BMWがこれまで築いてきた価値を次世代に継承・進化させるための基盤といえるでしょう。
2025年以降には、i3セダンやX3後継EVといったノイエ・クラッセ世代の本格モデルが登場する予定です。これらの車両では、パノラミックビジョンや新世代バッテリー技術、完全なEV専用設計に基づいたシャシー構造などが採用され、BMWの未来像を具現化していくことになります。
つまり、5シリーズLCIは“序章”に過ぎず、本格的な変革はこれから本格的に始まるのです。
まとめ:5シリーズLCIから見えるBMWの未来像
今回の5シリーズG60 LCIは、BMWが今後展開していくノイエ・クラッセ戦略の“先駆け”ともいえる存在です。見た目のデザイン変更にとどまらず、UIや操作系の刷新、シリーズ間の統一化といった未来のBMWを示唆する数々の要素が盛り込まれています。
ノイエ・クラッセは単なるEV専用プラットフォームではなく、ブランド全体の再構築を担う中心的な概念です。今後登場するX3や3シリーズなど、他のモデルにもこの潮流は確実に広がっていくでしょう。今後もBMWの動向には注目が必要です。
Reference:bmwblog.com
よくある質問(FAQ)
Q1. ノイエ・クラッセとは何を指しますか?
A. ノイエ・クラッセは、BMWが2025年以降に展開する次世代EV向けの新アーキテクチャとデザイン哲学の総称で、UIや内装などにも大きな革新が含まれています。
Q2. 5シリーズG60 LCIで何が変わるのですか?
A. ヘッドライトやグリルなどのエクステリアだけでなく、iDriveのUIやインテリアのボタン類削減など、ノイエ・クラッセ要素が多数取り入れられています。
Q3. ノイエ・クラッセはEV専用ですか?
A. アーキテクチャはEV専用ですが、UIやインテリアのコンセプトは内燃機関モデルにも展開され、BMW全体の統一感を生み出します。
Q4. 他のBMWシリーズにも同様の変更がありますか?
A. はい。次期X3や3シリーズのLCIなどにもノイエ・クラッセ的要素が段階的に導入される見込みです。
Q5. ノイエ・クラッセモデルはいつ登場しますか?
A. 初のノイエ・クラッセ専用モデルは2025年に登場予定で、i3セダンや次期X3 EVなどが含まれると予想されています。
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