BMWがアルピナを正式に傘下に収めてから二年。
独立ブランドとして培ったクラフトマンシップと上質な走りは、これからBMWファミリーの設計思想とどう融合していくのでしょうか。
ポールスター出身のデザイナー、マックス・ミッソーニの就任により、「挑発ではなく継承」という方針のもとで新型モデルの計画が動き出しています。
さらに、次世代電動プラットフォームとの整合やブランドの役割分担が再整理され、アルピナの“静かなプレミアム”をどう見せるかが焦点です。
本稿では統合の背景とデザイン哲学を整理し、発売が見込まれる次期ラインナップを展望します。
- 新生アルピナ像:BMW統合後は“静かな上質”を担う独自ブランドとして再定義。
- 予測モデル群:B7やiX7(仮称)など大型セダン/SUVを中心に展開見込み。
- 電動化と感性:音に頼らず光・素材・操作性で上質さを演出し体験を進化。
アルピナがBMWに統合された背景

アルピナは1965年創業のドイツ・ブッフロー拠点の少量生産メーカーで、長年BMWと緊密に協業してきました。
2022年、BMWはアルピナの商標とモデル権の取得を発表し、2025年までの移行期間を経て本格統合へ進みます。
買収と表現されることもありますが、正式には「ブランドの権利」の取得であり、開発・生産面の協業は継続されるという立て付けです。
背景には、排出ガス規制の厳格化や電動化に伴う法規・認証コストの増大といった少量メーカーに不利な構造要因がありました。
統合後は、BMWの生産品質と法規対応力を活かしつつ、アルピナ固有の内装仕立て、控えめな外観演出、ディテールの仕上げといった“気品”を維持する方針です。
さらに、新生アルピナの活動領域は中・大型セグメントが中心になる見通しで、従来の「特別なBMW」からBMW内の独立ブランドとして役割をより明確化する段階に入っています。
BMWは2026年にアルピナの将来像を公表するとされ、独立ブランドとしての最終モデルB8 GTに続き、統合後のモデル体系が順次示される見込みです。
電動化の歩調に合わせ、SUVや大型サルーンに軸足を置いた再編が注目されます。
新デザイン責任者マックス・ミッソーニの就任
出典:Instagramより
「挑発ではなく継承」を掲げる新体制
マックス・ミッソーニはポールスターのデザインを率いた後、2025年にBMWへ移り、5シリーズ級以上の中・大型車とアルピナのデザインを統括します。
本人は「挑発のために来たのではない」と述べ、ブランドの本質を尊重しながらピュアで直感的な体験を磨く姿勢を明言。
具体的には、過度な装飾を避け、プロポーションと面のクオリティで上質さを表現する方針で、いわば“静かな自信”を造形で語るアプローチです。
反映時期と担当領域のリアリティ
ミッソーニの影響が量産車に全面的に現れるのは2030年前後と見込まれています。
すでに開発後期にある次期アルピナ版7シリーズやX7は従来計画を踏襲し、一方でノイエ・クラッセ世代以降の電動サルーンや大型SUVにおいて、UIの簡素化とAI補助による“考えずに使える”上質な操作性、光と素材による情緒表現を強める、アルピナらしい設計思想が反映される公算です。
これにより、M部門の“アグレッシブ”とは異なる、落ち着いたスピード感を持つラグジュアリー像がより鮮明になります。
新生アルピナの方向性─“静かなるプレミアム”へ
BMWとの差別化と調和の両立
BMWが「走りと技術の最先端」を象徴するブランドであるのに対し、アルピナは今後「静かなるプレミアム」を担う存在として再定義されます。
スポーティさを誇示するのではなく、控えめな造形と滑らかな質感で上質さを表現する方向に舵を切っています。
マックス・ミッソーニは
「アルピナは主張しないことで美しさを保つ」
と述べ、光の反射や陰影を計算したボディライン、過剰な装飾を排したシルエットを提唱しています。
カラーリングやホイールデザインもよりクラシカルで落ち着いた方向に進化し、伝統のアルピナ・ブルーやピンストライプを現代的にアレンジする構想が進められています。
ラグジュアリーと機能美の再解釈
内装では、機能を詰め込むのではなく、ユーザーが直感的に扱える「整理された美」を追求しています。
BMW本体がデジタル化を加速する一方で、アルピナは操作感と素材感に温もりを残す設計を目指します。
高級素材を使用しつつ、過剰な光沢を避け、手に触れた瞬間に質の高さを感じられるインターフェースへ。
これらの方針は、将来的にアルピナが「上質な静けさと落ち着き」を象徴するブランドへと進化する布石となっています。
投入が予測される新型アルピナモデル一覧
1. iX7 ALPINA G67(仮称)─初の完全電動SUV

最も有力視されているのが、BMW X7の次期型をベースにした「iX7 ALPINA」です。
2027年頃の登場が見込まれ、アルピナとして初のフル電動SUVとなる可能性があります。
出力は約800馬力、航続距離はWLTP換算で800km級を目指すとされ、アルピナらしい静粛性と重厚な乗り味を両立。
内装には専用レザーやアルミ加飾を用い、Mモデルよりも落ち着いた雰囲気を強調します。
電動化時代のフラッグシップとして、BMWとアルピナ双方の象徴になるモデルです。
2. 次期7シリーズ ALPINA B7 G70(仮称)─伝統のフラッグシップサルーン

現行G70型7シリーズをベースにした新世代アルピナB7も開発が進んでいると見られます。
従来のV8モデルに加え、i7ベースの電動仕様「B7e(仮称)」が計画段階にあり、内燃とEVの両路線で展開される可能性があります。
アルピナ特有のサスペンション設定とエンジン制御により、快適性と動力性能を高い次元で融合。
ライバルはメルセデスAMG S63E PERFORMANCEやアウディS8などですが、アルピナはより静粛で穏やかな高級感を追求します。
3. ALPINA版 Neue Klasse セダン─未来世代の中核モデル
2030年前後に登場予定のNeue Klasse(ノイエ・クラッセ)世代では、アルピナ版の電動セダンが投入される見通しです。
5シリーズ相当のセグメントに位置づけられ、航続距離は700km超、出力は600馬力級を想定。
BMWが開発する次世代eDrive技術と統合しつつ、アルピナ流の乗り味チューニングを施します。
エクステリアはミッソーニのデザイン哲学に基づき、滑らかな面構成と抑えたバッジデザインが特徴となるでしょう。
電動化時代における“新しいB5”とも言える存在です。
4. ALPINA X5 G65/X6 G66─高性能SUVの新基準
現行XD5やXD6の後継として、電動化を前提としたSUVモデルも2028年以降に登場が見込まれています。
BMW M部門のスポーツ性に対し、アルピナは快適性と長距離性能を重視。
四輪駆動のモーター制御を繊細にチューニングし、速度域を問わず安定した挙動を実現します。
内外装の仕立てでは、SUVでありながらセダン並みのエレガンスを持たせる方向です。
特にインテリアでは、ウッドと金属のコンビネーションを取り入れた上質な空間が想定されています。
アルピナが目指す新章
これらのモデルはいずれも公式発表には至っていませんが、電動化とラグジュアリーを両立する「新世代アルピナ」の骨格が見えてきます。
従来のB3やD4のような中型モデルは一時的にラインナップ縮小が予想される一方で、大型・高級車に軸足を置いた戦略が中心となるでしょう。
アルピナはBMWファミリーの中で、静けさと緻密さを武器に独自の存在感を放つブランドへと進化しようとしています。
電動化時代におけるアルピナのデザイン再構築
エンジンの感性をデザインで再現する
アルピナが長年培ってきた魅力の一つは、エンジンの鼓動とサウンドに宿る情緒でした。
しかし電動化が進む今、アルピナは“静けさの中にある感性”をデザインで表現する方向へと舵を切っています。
マックス・ミッソーニは、エンジン音に代わる感動を「光と素材、そして触感」で伝えると語ります。
たとえば夜間走行時には、環境光が室内の金属面を穏やかに照らし、運転者に安堵と集中をもたらす―そうした体験こそが新しいアルピナらしさです。
AIが支える“考えずに使える上質さ”
BMWが進めるノイエ・クラッセ世代では、複雑な制御をAIが裏で担い、ユーザーにはシンプルな操作体系を提供します。
アルピナではこの仕組みをさらに洗練させ、余計な操作を感じさせない自然なインターフェースへと発展させる構想です。
デジタル技術を使いながらも、機械的な印象を排し、人が心地よく感じる“間”をデザインに取り入れる。
まさに、電動化時代にふさわしい「感性の再構築」が進行しているのです。
まとめ:BMWの中で輝く“静かな主張”
BMWに統合された新生アルピナは、速さや派手さを競うブランドではなく、上質さと知性を象徴する存在として再出発します。
マックス・ミッソーニの掲げる「挑発ではなく継承」という理念のもと、電動化時代にも人の感性に響くデザインを追求する姿勢は揺らぎません。
これから登場する新型モデル群は、静けさの中に潜む情熱と、細部に宿る美意識を体現することでしょう。
アルピナはBMWファミリーの中で、ひときわ静かに、そして確かに輝こうとしています。
Reference:autocar.co.uk
よくある質問(FAQ)
Q1. 新生アルピナの新型はいつ登場しますか?
正式発表時期は未公表です。次期X7系や7シリーズ系を起点に、2027年前後から段階的投入が見込まれます。年次改良や電動版の併売など長期計画になる可能性が高いです。
Q2. BMW Mモデルとアルピナは何が違いますか?
Mはサーキット直系の攻めた走りが軸、アルピナは長距離での上質さと静粛性、仕立ての良さが軸です。加速や最高速は競う一方で、味付けとキャラクターが明確に分かれます。
Q3. 予測される新型モデルの中心はどのセグメントですか?
大型セダンと大型SUVが中心です。次期7シリーズ系のB7(内燃+電動)や、完全電動SUV(iX7 ALPINA仮称)など、上位クラスでの展開が主軸になります。
Q4. 電動化でアルピナらしさは失われませんか?
エンジンサウンドに代わる“感性の演出”として、光・素材・操作感で上質さを表現します。静かで速い、余裕ある長距離性能という核はむしろ強化されます。
Q5. デザイン責任者は誰で、何を重視していますか?
マックス・ミッソーニが統括します。「挑発ではなく継承」を掲げ、過剰な装飾を避け、プロポーションと面質、直感的な操作性を重視する“静かなプレミアム”が柱です。
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