高級SUV市場は、メルセデス・ベンツGクラスやランドローバー・ディフェンダーといった本格オフロードモデルの人気で活況を呈しています。しかし、BMWはそのようなタフなSUVを展開せず、都市型SUVに注力しています。なぜBMWはGクラスのような本格的なSUVを開発しないのか?本記事では、その理由と背景を探っていきます。
1. BMWが本格SUVを出さない理由
コストや開発リソース、ブランド戦略がGクラスのような本格SUVを避ける要因
2. メルセデス・Gクラスの成功
高いオフロード性能とラグジュアリーさを融合し、ステータスシンボルとして人気
3. 未来の可能性とパートナーシップ
Ineos社との提携や電動化技術により、将来的に本格SUV市場に参入する可能性
高級SUV市場の現状
近年、SUV市場は急速に拡大し、高級車メーカーも次々と本格的なオフロードSUVを投入しています。
その中でも、メルセデス・ベンツのGクラスは特に高い人気を誇り、タフなオフロード性能と豪華な装備が融合した独自の地位を築いています。
他のメーカーもランドローバー・ディフェンダーやジープ・グランドワゴニアなど、ラグジュアリーとオフロード性能を兼ね備えたモデルでこの市場に参入しています。
一方、BMWは多彩なSUVラインアップを展開しながらも、Gクラスのような本格オフロードSUVには手を出していません。
Xシリーズなどの都市型SUVが中心ですが、オフロード志向の車は見られません。
BMWがなぜ本格SUV市場に参入しないのでしょうか?
BMWのラインアップと戦略
BMWのSUVラインアップであるXシリーズは、X1からX7まで多様なモデルが揃っています。
これらの車は、主に舗装された都市部での快適な走行を念頭に設計されており、高級感とスポーティな走りを兼ね備えています。
たとえば、X1やX3はコンパクトながらも俊敏なパフォーマンスを提供し、X5やX7はラグジュアリーSUVとして、家族向けの快適な移動手段として人気です。
しかし、これらはオフロードでの過酷な走行を想定しているわけではなく、日常的な舗装路での使用が主な目的です。
BMWはSUV市場に対して、ラグジュアリーとドライビングプレジャーを重視するアプローチを採っています。
これにより、都市生活者やファミリーユーザー向けに洗練されたデザインと快適性を提供しています。
一方、メルセデスのGクラスのような頑丈さを重視するモデルとは一線を画し、BMWはブランドの特徴である「駆け抜ける喜び」をSUVにも反映させ、都会的なライフスタイルにマッチするモデルを中心に展開しています。
メルセデス・Gクラスの成功要因
メルセデス・ベンツGクラスは、1979年に軍用車として誕生し、堅牢な耐久性と優れたオフロード性能で一躍有名になりました。
3つのロックディファレンシャルや全輪駆動システム、優れた地上高などにより、どんな過酷な地形でも走破できるタフさを誇ります。
この高いオフロード性能がGクラスの最大の魅力の一つであり、同時にラグジュアリーな内装も兼ね備えているため、他に類を見ない存在となっています。
さらに、Gクラスは豪華な素材や最新技術を採用し、快適な乗り心地を提供します。
その上、Gクラスは単なる車ではなく、セレブリティや富裕層にとってはステータスシンボルとしての地位を確立しています。
特にハリウッドや音楽業界で頻繁に取り上げられ、個性的なデザインとその高価格帯からも「成功者の象徴」として広く認知されています。
こうした要素の組み合わせにより、Gクラスは高級SUV市場において独自の地位を確立し、長年にわたり愛され続けています。
BMWが本格SUVを発売しない理由
BMWがメルセデス・Gクラスのような本格的なオフロードSUVを発売しない理由は、複数の要因によるものです。
まず、コスト面が大きな理由です。
GクラスのようなタフなオフロードSUVをゼロから開発するには、専用のボディオンフレーム構造や、複雑な全輪駆動システムなど、膨大なリソースが必要です。
BMWは既にEV市場の新技術や「Neue Klasse」(ノイエ・クラッセ)といった次世代プラットフォームの開発に多額の投資を行っており、これ以上のリソースを本格SUVに割くのは非現実的です。
また、ブランド戦略の違いも大きな理由です。
BMWは「駆け抜ける喜び」をブランドの核としており、これに合致する車を展開しています。
主に舗装路でのドライビングプレジャーを提供する都市型SUVが、BMWのブランドイメージに合致しているのです。
オフロード性能に特化したSUVは、ラグジュアリーとスポーティな走りを強調するBMWの方向性とは異なります。
さらに、Gクラスのような本格SUV市場は競争が激化しており、ランドローバー・ディフェンダーやジープなどの強力なライバルが既に存在しています。
BMWがその市場に参入するには、多大なリスクを伴います。
そのため、BMWは敢えてこのセグメントには積極的に参入せず、既存の強みを活かした他の市場戦略を優先しています。
とはいえ、BMWは冒険的な取り組みを完全に避けているわけではありません。
例えば、Xシリーズにオフロードパッケージを設定したり、XMのような新しいコンセプトモデルで市場を拡大しています。
しかし、本格SUVの開発には高いリスクとコストが伴うため、現時点では積極的に取り組んでいないのです。
可能性のあるパートナーシップと将来の展望
BMWが将来的に本格SUV市場に参入する可能性として、Ineos社(イネオス)とのパートナーシップが注目されています。*1
Ineos社(イネオス)は、BMWのエンジンを使用した「グレナディア」といったタフなオフロード車を展開しており、両社が協力することで、BMWも本格SUVの開発を効率化できるかもしれません。
また、世界的にオフロード車の需要が高まっていることや、電動SUV市場の成長も無視できません。
BMWは「Neue Klasse」(ノイエ・クラッセ)などの次世代電動プラットフォームを開発しており、これが本格SUVの電動版を生み出す可能性もあります。
将来的には、電動オフロードSUVの市場への参入が期待されるでしょう。
*1:Ineos社(イネオス)とは
1998年に設立されたイギリスを拠点とする多国籍企業で、化学製品の製造を主な事業としています。
同社は石油、化学、プラスチックの分野で大きな存在感を持ち、エネルギー分野でも影響力を持つ世界有数の企業です。
CEOのジム・ラトクリフ卿の指導のもと、Ineos社は多角化を進め、スポーツや自動車産業にも参入しています。
自動車産業においては、Ineos Automotiveという子会社を通じて、頑丈なオフロード車「Ineos Grenadier(グレナディア)」を開発しました。
この車は、クラシックなランドローバー・ディフェンダーにインスパイアされ、特に過酷な地形を走破できる性能を誇っています。
Ineos Grenadierには、BMWの直列6気筒エンジンが搭載されており、IneosとBMWの技術提携が実現しています。
このような展開によって、BMWが本格SUVの販売を開始する可能性は残されています。
Reference:bmwblog.com