前回の記事では、2019年式BMW Z4 G29に純正デジタルキーを後付けできるかどうかを検証しました。
その結果、ハードウェア面ではNFCアンテナや対応ハンドルの追加、ソフトウェア面ではBDC(ボディドメインコントローラー)やConnectedDrive認証が必要となり、現実的には実装がほぼ不可能という結論に至りました。
しかし、便利なデジタルキーの使い勝手をX4で体験してしまうと、どうしてもZ4にも同じ機能を搭載したくなります。
そこで、純正以外の後付け手段を検討してみることにしました。
PHONE AS KEYを検討してみた

スマホでドアを開ける仕組み
「PHONE AS KEY」は、株式会社ウォッチスマートキーが開発・販売している後付けスマートキーシステムです。
公式サイトでは「PKEキーレスエントリー(PKE KEYLESS ENTRY)」機能を搭載しており、スマホをポケットやバッグに入れたままでも車に近づけば自動で解錠し、離れれば自動で施錠できると記載されています。
この機能により、アプリを開く手間すら不要で、スマートフォンがまるで純正キーのように動作します。
Bluetooth通信を利用して、スマホの接近距離を検知し、ロック・アンロック信号を制御ユニットに送信する仕組みです。
理論上は、Z4 G29でも同様に機能させることが可能に見えます。
便利なPKE機能にも弱点がある
一方で、この“近づいて解錠・離れて施錠”という機能は非常に便利に感じる反面、実用上の注意点もあります。
例えば洗車中やガソリンスタンドでの作業、メンテナンス中にスマホを持ったまま車に近づくと、自動的に解錠してしまう可能性があります。
意図せずロックが解除されるのは、安全面や整備作業の観点から見ると少々不便です。
そのため、普段の利用ではPKE機能をオフにして、アプリ操作でロック・アンロックを行う方が現実的だと感じます。
公式アプリには手動操作モードも用意されているため、状況に応じて使い分けるのが安心でしょう。
セキュリティと信頼性
PHONE AS KEYはBluetooth通信を利用してスマートフォンと車内ユニットを接続し、その信号を車両のキーレスシステムに中継する構造になっています。
つまり、スマホから送られた指令がBluetoothを介して制御ユニットへ届き、そこからBMWのキー信号ラインへと伝達される仕組みです。
この「割り込み型の構造」こそが、便利さと引き換えに最も注意すべきポイントです。
BMWのスマートキー信号は暗号化されたIDとローリングコードで構成されており、キーと車両が1対1で認証されています。
そこに後付けユニットが割り込む場合、純正の通信経路の途中に“第三者”が介在する形になるため、通信の整合性や認証手順が崩れるリスクがあります。
BMWはボディドメインコントローラー(BDC)を通じて通信整合性を常時監視しており、想定外の信号や応答があれば「キー認識エラー」「防盗システム異常」として記録される可能性もあります。
さらに、このような割り込みユニットは常時通電・常時通信状態で動作します。
BMWは待機電流を厳密に管理しているため、外部デバイスの追加によってスリープモードへの移行が遅れたり、バッテリー消費が増えたりすることも考えられます。
特にZ4 G29のように電子制御が統合化されたモデルでは、こうした副作用が長期的な信頼性に影響する可能性も否定できません。
Bluetooth通信そのものにもセキュリティ上の懸念があります。
Bluetoothは基本的に暗号化されていますが、過去には「ブルートゥース・スニッフィング(通信傍受)」や「リレー攻撃(通信中継)」などの脆弱性が報告されています。
PKE(Passive Keyless Entry)機能をオンにしている場合、スマホが車に近づいただけで自動的に解錠される仕組みのため、第三者が通信を中継すれば「スマホが近くにある」と誤認させてロックを解除させることが理論上は可能になります。
また、万が一PHONE AS KEYの制御ユニットがフリーズや誤作動を起こした場合、キー信号を正しく中継できず、ロックが効かなくなる、または誤って開錠されるなどの不具合が発生する恐れもあります。
これは物理的なキー割り込み構造に共通するリスクであり、BMW純正のような複数の安全確認を行う仕組みが存在しない以上、ハードウェア側の安定性が極めて重要になります。
これらを踏まえると、PHONE AS KEYのセキュリティと信頼性は「使い方次第」と言えます。
PKE機能を常時オンにして完全自動運用するのではなく、アプリ操作モードを活用して必要なときだけロック・アンロックを行うのが現実的です。
また、物理キーを常に携行し、もしもの通信障害に備えることも欠かせません。
便利さを重視するならPHONE AS KEYは有力な選択肢ですが、BMWのキー信号に割り込むという構造上のリスクを理解したうえで慎重に導入を検討すべきだと思います。
実装の現実性
現在、PHONE AS KEYの公式情報では「プッシュスタート式の全国産メーカー車種および<外国車>に対応」との案内があり、標準仕様(OBD接続のみで設定完了)と特殊仕様(純正スマートキーを1個要する、またはECU接続が必要)に分かれると明記されています。
つまり、輸入車も含めて後付けの選択肢は広がっていますが、車種ごとの仕様差により作業内容と可否が変わる前提です。
一方で、BMW(特にZ4 G29)に関しては公式ページに個別の適合リストが示されていないため、最終的にはメーカー(販売元)への問い合わせで適合可否と作業区分(標準/特殊)、を確認するのが確実です。
THE CUP(ザ カップ)という別アプローチ

純正キーを物理的に操作する装置
PHONE AS KEYの次に見つけたのが「THE CUP」というクラウドファンディング発の商品です。
THE CUPは純正キーを車内に収め、そのボタンを物理的に押すアクチュエータで解錠・施錠を行うガジェットです。
純正キーの電波とローリングコードをそのまま利用するため、メーカー側の認証プロセスを迂回する必要がなく、通信の再現や暗号解読といったリスクを避けられる点が最大の利点です。
一方で、純正キーを常時車内に保管する運用は盗難や車上荒らしのリスクを高めます。
また装置自体の耐熱・防水・耐振動性、アクチュエータの耐久回数、バッテリ監視とフェールセーフ設計が実用上の肝になります。
実際の導入では装置を目立たせない固定方法や堅牢なカバー、開封を検知するタムパーセンサー、予備キーの別保管、バッテリ異常時の手動解除手順を用意することが望ましいです。
まとめると、THE CUPは理にかなった安全な回避策ですが、運用上のリスク管理と装置の堅牢性・車種適合性の確認が前提となります。
再販がなく入手困難
しかし、このTHE CUPはすでにクラウドファンディング限定で販売が終了しており、現在は新品も中古もほとんど出回っていません。
もし入手できれば、Z4 G29のような純正デジタルキー非対応車でも、安全かつ確実にスマート化できる理想的な製品だったと思います。
デジタルキー後付け問題は今度も続く
PHONE AS KEYは、アプリ操作なしで解錠・施錠ができるという点で大きな進歩を感じます。
しかし、PKE機能の運用面には注意が必要です。
THE CUPも入手困難で、いずれの方法も完全な解決には至っていません。
結果として、Z4 G29のデジタルキー後付け問題は依然として解決していないのが現状です。
純正ルートは技術的に閉ざされ、サードパーティ製では信頼性やサポート体制に不安が残ります。
とはいえ、車載デジタルキーの需要が高まっている今、将来的には旧型車にも対応する後付けソリューションが登場するかもしれません。
私自身、今後も新しい後付けデジタルキーの動向を追いながら、Z4に最適な方法を探し続けていきたいと思います。





コメント