EV(電気自動車)にミッション(変速機)があれば運転は楽しいのか?電気自動車(EV)はガソリン車とは異なり、ほとんどの場合シングルスピードトランスミッション(1速のみ)を採用しています。

これは、モーターが低回転から最大トルクを発揮するため、複数のギアを必要としないからです。

しかし、シンプルな構造は効率的な一方で、「運転が単調」「面白みがない」と感じるドライバーも少なくありません。

こうした課題を解決しようと、ステランティスが「シフト操作をシミュレートする特許」を出願し、注目を集めています。

この記事では、EVにミッションがあれば運転体験がどのように変わるのか、他のメーカーの取り組みも含めて詳しく解説します。

この記事のポイント
  1. EVにミッションがない理由:EVはモーター特性上、ギアが不要でシングルスピードが主流。しかし「単調」と感じるドライバーも
  2. ステランティスの新技術:ステランティスはシフト操作を疑似体験できる技術を開発し、運転の楽しさを向上させる特許を出願
  3. 他メーカーの取り組み:ヒュンダイやトヨタなども、シフト操作やサウンドを再現する技術で、EVの運転体験を進化

EVとガソリン車のミッションの違い

まず、ガソリン車とEVのミッション(変速機)の違いを理解することが重要です。

ガソリン車のミッション

ガソリン車では、エンジンが最適な回転数で動くようにするため、多段式ミッションが採用されています。

例えば4速、6速、8速といった多段変速機は、エンジンの出力を効率よくタイヤに伝える役割を果たします。

運転者がマニュアル操作を楽しむことも、オートマチック車のシフトチェンジによる滑らかな加速も可能です。

EVのトランスミッション

対照的に、EVはほとんどがシングルスピードトランスミッションです。

これは、電気モーターがエンジンと違い、0回転から最大トルクを発生させる特性があるからです。

そのため、わざわざ複数のギアを使って出力を調整する必要がなく、シンプルな構造で高い効率を維持できます。

例えば、ポルシェ「タイカン」は珍しく2速トランスミッションを採用しており、高速域での加速性能を向上させていますが、これは例外的なケースです。

一般的なEVはギアチェンジが不要で、静かでスムーズな加速を提供します。

しかし、このシンプルさが一部のドライバーにとって「単調」「面白くない」という印象を与えることもあります。

EVに多段ミッションが採用されない理由

EVに多段ミッションがあまり採用されない理由には、いくつかの技術的・経済的な要因があります。

  • モーターの特性
    EVの電気モーターは、どの回転数でも最大トルクを発揮できるため、ギアを切り替える必要がありません。低速域でも高速域でもスムーズに加速できるため、シングルスピードで十分なのです。
  • 効率性とシンプルさ
    複雑な多段ミッションを搭載すると、部品点数が増え、重量が増加します。これにより、コストが上がり、エネルギー効率も下がる可能性があります。シングルスピードの方がシンプルで維持費も抑えられます。
  • コスト面
    ミッションを追加することは製造コストに直結します。自動車メーカーとしては、シンプルで低コストなシングルスピードの方が生産性に優れているため、採用しやすいのです。

しかし、運転の「面白さ」という観点では、シフト操作がないことが物足りなく感じる要因となっています。

この課題に対して、新しいアプローチが考えられています。

ステランティスの「シフトシミュレーション特許」

2023年9月、ステランティスはアメリカ特許商標庁(USPTO)に「シフト操作のシミュレーション技術」に関する特許を申請しました。

この特許は、シングルスピードトランスミッションのEVに、あたかも多段ミッションが搭載されているかのような「シフトチェンジ体験」を提供する技術です。

仕組みの概要

ステランティスの技術は、センサーと制御モジュールを活用してモーターのトルク出力を一時的に調整し、シフトアップやシフトダウンの感覚を再現します。

  • パワーオン時のシフトアップ:加速時にギアが変わる感覚を疑似的に作り出します。
  • ダウンシフトの再現:アクセルを強く踏み込むと、従来のAT車のように「キックダウン」を感じる仕組みです。

さらに、シフトチェンジ体験はドライブモードに連動させたり、トルクベクタリング(左右のタイヤに異なるトルクを伝える技術)を組み合わせることで、スポーツ走行や「クラブウォーク」などの特殊な走行モードも実現可能です。

ステランティスの特許は、運転の「楽しさ」をEVにもたらす画期的な技術として期待されています。

ミッション搭載EVがもたらす運転の楽しさ

EVにミッション(疑似シフトを含む)が搭載されることで、ドライバーにとっての運転体験は大きく変わります。

  • シフト操作の楽しさ
    シフトチェンジによる加速感や減速感は、スポーツカーのような運転の楽しさを再現します。ドライバーが自分の操作で車を「操っている」感覚を得ることができます。
  • 没入感の向上
    疑似シフトを搭載することで、EVの静かで単調な加速が、よりダイナミックで没入感のあるものになります。例えば、コーナーでシフトダウンして減速する感覚は、従来のガソリン車に近いフィーリングです。
  • スポーツ走行の魅力
    特にスポーツEVでは、ミッションのシフトチェンジが走行性能の向上にもつながります。ポルシェ「タイカン」のように、高速域と低速域で最適なギアを切り替えることで、さらに高いパフォーマンスを発揮します。

これらの要素は、運転を「楽しい」と感じるドライバーにとって非常に魅力的なものです。

他メーカーのEV運転体験向上への取り組み

ステランティス以外にも、運転体験の向上に取り組むメーカーは増えています。

  • ヒュンダイ「Ioniq 5 N」
    ヒュンダイは「N e-shift」機能を搭載し、8速DCTのようなシフトチェンジの感覚をEVで再現しています。シフト音や振動までも疑似的に再現し、没入感を高めています。
  • フォルクスワーゲン「ID.GTI」
    フォルクスワーゲンは、EVのドライブモードで過去のGTIシリーズの挙動やサウンドを再現する取り組みを行っています。
  • トヨタの取り組み
    トヨタはEVに物理的なシフトレバーやクラッチペダルを導入することを検討しています。これにより、マニュアル車の操作感をEVでも体験できる仕組みです。

これらの技術は、EV特有の静かでシンプルな走りに「楽しさ」を加える重要な要素となっています。

ミッション搭載EVの課題と展望

ミッション搭載EVには魅力がある一方で、課題も存在します。

  • 重量と効率性
    多段ミッションを搭載すれば、車両重量が増加し、エネルギー効率が下がる可能性があります。
  • コストの増加
    ミッションや関連システムの追加により、製造コストやメンテナンス費用が高くなる懸念もあります。
  • 実用性とのバランス
    EVの最大の利点であるシンプルさや静音性を維持しつつ、運転の楽しさをどう取り入れるかが課題です。

今後、技術の進化により、疑似シフト技術や軽量化されたミッションが普及すれば、これらの課題も解決される可能性があります。

まとめ:EVの運転体験はどう変わるのか?

EVにミッション(疑似含む)を搭載することで、運転体験は大きく変わります。

シンプルで効率的なEVの利点を維持しながら、従来のガソリン車のような「シフト操作の楽しさ」や没入感を提供することが可能になるのです。

ステランティスの特許技術や他メーカーの取り組みが進む中、今後のEVは単なる移動手段ではなく、運転の「楽しさ」を再発見できる存在へと進化するでしょう。

Reference:motorauthority.com